アスリートの妻といえば、夫の競技生活全てを支えるイメージだが、それも今は昔。大迫傑選手の妻あゆみさんは、夫が遠征中のワンオペ、日常茶飯事のケンカのことなどの飾らない家族の日常を発信する。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。

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 今日なんの日? 今日はゴミの日! 足折るぞ

 青春を 返せ!こっちのセリフだわ

 ある結婚記念日に、大迫あゆみさん(33)がインスタに投稿した川柳だ。夫は、プロランナーで、東京五輪マラソン6位の大迫傑選手(31)。2015年から投稿するインスタに加え、21年にはYouTube「大迫裏ちゃんねる」も始めた。共感のコメントを寄せる人の大半は女性や主婦などスポーツとは縁がない人たち。孤高のプロランナーの飾らない家族の日常にファンが急増中だ。

「ケンカは日常茶飯事。でも、切り取り方次第では笑えるかな、と。私たちは、どこにでもいる普通の家族。特別という意識はないです」

常に普段通りを心がけ

 ともに大学生の時に出会った。箱根駅伝などで活躍した大迫選手は、卒業後に日清食品グループ陸上部へ。2年目の15年、プロに転向し、米国に行く決断をした。当時長女は2歳。前例のない挑戦に、周囲の心配は大きく、「家族は邪魔になる」と面と向かって言われたことも。

「悔しかったですね。日本では、マラソン選手は『修行僧』のようなイメージが強いせいもあったと思います。インスタを始めたのは、アメリカで家族みんなで頑張ってるよ、と伝えたかったからかもしれません」

 大迫選手のチームメイトには、リオ五輪1万メートルの金メダリスト、モハメド・ファラー選手らがいた。

「選手みんなが家族を堂々と自慢している。なんだかホッとしました」

 日々の生活で心がけているのは「常に普段通りであること」。練習の日も、休養日も、五輪の日も、すべて同じ1日だと考えているという。

「アスリートの妻なんだから、こうしてと言われたことも一回もない。夫は、ハードな練習後に、娘の誕生日プレゼントを買いに行くなど、家族をうまく使ってオンとオフを切り替えていると思います」

妻には「でしゃばるな」

 大迫選手は、16年リオ五輪で5千、1万メートルに出場し、18年にはマラソンで2時間5分50秒の日本記録(当時)を樹立。あゆみさんは、合宿で不在中はワンオペをしながら、大会の時は1人で幼い娘2人を連れて飛行機で移動し、応援してきた。

 ただ、あゆみさんには、もやっとする瞬間がある。

 大迫選手のゴールを伝えるテレビ放映。子どもや両親が映ると好意的なのに、妻である自分が映り込んだ途端に「でしゃばるな」「あなたの手柄じゃない」と非難される。

「妻は三歩下がって支えるべきだとされている。なのに、夫の調子が悪いと急に前に出されて、妻のせいにされがちです」

 東京五輪の10日前、大迫選手が現役引退を表明したことについて、あゆみさんは、

「さみしさの一方で、この人まだやるんじゃないかな、と。家族の勘があった」

 と笑う。確信したのは、五輪後に家族で行った米カリフォルニアのディズニーランドでのこと。大迫選手はホテルで、シカゴマラソンの中継をじっと見ていた。その背中は、妙にさみしそうだったという。案の定、今年2月、現役復帰を表明した。

「大好きな走ることを、手放したくなかったんじゃないかな。走っている姿が一番かっこいい。これからも、普段通りのサポートをしようと思います」

(編集部・古田真梨子)

※AERA 2022年7月11日号