日本中が興奮のるつぼと化したドイツ戦での勝利。その驚くべき結果に、世界中が目を丸くした。日本のサッカー史に新たな1ページを加えたのは、見事な采配で大逆転劇を演出した日本代表・森保一監督だ。大一番となる27日のコスタリカ戦を前に、現地カタールから選手の声を交えて、彼の“思考”を読み解く。

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 前半の劣勢も、後半の攻勢も、森保一監督にとっては織り込み済みだった。相手は強豪国ドイツ。先制を許せば、敗色濃厚。だが、日本はこれまで見せてこなかった戦いをこの大一番で実践し、見事な逆転劇を演じてみせた。

 前半33分にドイツにPKを決められた時点で、後半の展開を予想できた人はほとんどいなかったのではないか。しかし、当事者である選手たちにとっては、想定内だったという。理想は0−0でハーフタイムを迎えることだったものの、0−1のケースもあらかじめ想定していたと、吉田麻也キャプテンは試合後に明かした。

「失点はプランではなかったですけど、プランどおり我慢してブロックを作って、後半サイドの選手が違いをつくる、スペースができる、我慢してショートカウンターを打つ。あまりにもプランどおりに事が進んでびっくりしていますけど、そのとおりにいったことは素晴らしかった」

選手が語る3バックの“評価”

 大逆転劇の要因として大きかったのが、後半開始時のシステム変更だ。

 日本は4−2−3−1から3−4−2−1へ形を変えた。2020年の欧州遠征のパナマ戦では試合開始から、カメルーン戦では後半からテストしたことはあったものの、最近はもっぱら試合終盤に採るシステムだった。

 ただこの日は、1点を追う状況で後半開始から採用した。前半自陣に押し込まれた状況を改善するためだ。ドイツのトップ下で自由に動くミュラーと頻繁に左サイドから内側に入って来るムシアラのプレーに悩まされ、さらに相手左サイドバック、ラウムの進出を許したために、前半の日本は長い時間、自陣でのプレーを強いられた。チームコンセプトである「良い守備から良い攻撃」を実践するためには、まず守備の安定が欠かせない。そのための一手が、3バック(5バック)の採用だった。

「後半、(うしろを)5枚にしてマンツーマンのようになったので、あとはもう自分の目の前の敵に勝てばいいだけになった。役割はシンプルになりました」(酒井宏樹)

「前半、難しい時間帯が続きましたけど、後半、相手をハメにいった中で1対1にフォーカスすることができたし、やらせないっていう思いでした。僕だったらムシアラ選手と対峙することが多かったですけど、絶対にやらせないという思いでやっていました」(板倉滉)

「前半は本当に酷くて、これが個人的に初めてのワールドカップで、あのままの形で終われば、間違いなく僕は過去最悪の試合だったと思う。一生後悔するような内容だったと思いますけど、森保さんがしっかりフォーメーションを変えて自分たちが勇気を持ってプレーしたことによって、結果を得られたと思う。自分たちが普段リーグでやっている選手が多いので、ああやって対等に渡り合えば、どこのチームともいい試合ができることを証明できた。そういう面で今日は本当に全ての選手が良かったと思うし、森保さんの采配が全てだったかなと思います」(鎌田大地)

 鎌田はさらに「守備がハマっているということで、頭の部分のストレスがみんな無くなったと思うし、3バックはフランクフルトで常に僕がやっているフォーメーションだったので、明らかに前半よりもボールに触れるようになって、良かったかなと思います」とも話している。

森保が証明した「いつでもできる」

 2021−2022シーズンのヨーロッパリーグで鎌田が所属するフランクフルトは3バックを用いた見事な戦いぶりでバルセロナを下した。その直後、筆者は日本代表における3バック採用の可能性について森保監督に尋ねたことがある。返ってきたのは、「日本人には4バックが合っている」「4から3はできるが、3から4に変わるのは難しい」「(今の選手なら)3バックはいつでもできる」という答えだった。

 その時に聞いた「いつでもできる」という言葉を今回、森保監督は証明した。

 ドイツ戦の4日前から実施された非公開練習でも3バックに特化した練習は行なっていないと、指揮官も選手たちも話している。それでも遠藤航によれば、「別に(練習を)やっていなかったですけど、常にオプションとして持ってるということは、(森保監督が)チームに話してくれていたし、それがじゃあ守る展開なのか、(点を)取りに行く展開なのかで、やるみたいなことは言っていた」と、常に意識してきた形ではあったという。この大一番で点を取り行くために「いつでもできる」3バックを採用し、見事に結果につなげたということだ。

W杯本番で超攻撃的陣容

 システム変更とともにもう一つ、逆転の要因として語り落とせないのは、終盤のカードの切り方だ。

 3バックの採用に伴い、46分に久保建英に代えて冨安健洋をピッチに送ったのは、わかる。57分に長友佑都に代えて三笘薫を左ウイングバックに入れたのも1点ビハインドの状況にあり、ゴールを取りにいく必要があったので理解できる。三笘の背後に冨安が構えており、日本が誇るドリブラーの守備の負担を軽減しつつ、バランスを保てるとの判断もそこにはあったかもしれない。

 同じく57分に前田大然に代えて浅野拓磨をピッチに送ったのも、前半から相手DFにプレッシャーをかける役割を担った前田の消耗を考慮し、浅野の一発に期待した交代と考えればわかりやすい。いわば、想定内の交代だろう。

 ただ、ここからの采配は驚きだった。森保監督は、ドイツの予想の上を行くカードを切っていく。

 71分に田中碧に代えて堂安律、75分には酒井宏樹に代えて南野拓実をピッチに送った。酒井がベンチに下がったことで、右ウイングバックはシステム変更に伴い、右サイドハーフから右シャドーにポジションを変えていた伊東が担当。両ウイングバックが左は三笘、右は伊東で、ともに純然たるアタッカーになった。そして3−4−2−1変更後、左シャドーでプレーしていた鎌田はボランチに下がった。フィールドプレーヤーは、6人の攻撃的な選手と3人のCBと守備能力の高いボランチの遠藤という構成。超攻撃的な陣容で日本はゴールを奪いにいった。

 その結果、堂安律が同点ゴールを決め、浅野拓磨が逆転ゴールを記録した。このチームは逆転勝利の少なさや、攻撃的な采配が少ないとされてきたが、何より重要なW杯本番で、強豪ドイツを後手に回らせる手を打ち、勝利をつかみ取った。

 森保監督はシステム変更の意図について、こう説明する。

「相手にボールを握られて、かなり大きく揺さぶられていたところがあったので、3バック、そして5バックということで、相手の揺さぶりに対してケアしようと考え、システムを変更しました。かつ、直近の親善試合のカナダ戦の時に、相手に合わせて良い守備ができれば、われわれがボールを握るというところもチームとしては自信を持っていました。ですから幅の部分をケアして攻撃に厚みをもたらすシステムということで、選手たちは理解してくれていたと思います」

指導者として大きな成長

 2012年から2017年途中までのサンフレッチェ広島の監督時代にも同じ3−4−2−1を用いてJ1を3度制覇しているが、当時は守備の局面で帰陣することがベースだった。素早く引いてブロックを組み上げ、相手の攻撃を防いで、ボールを奪ったら3−4−2−1から4−2−5に可変して攻める。それが基本。当時とは比べると形は同じでも趣は大きく異なる。

 日本代表では後ろを相手と同数にしても守り切れる選手がそろっていることもあり、よりアグレッシブに前に出ていくことが可能になっている。だからこそ、攻撃的なカードも切れたに違いない。過去を振り返っても森保監督が、90分の中でこれほど攻撃的な手を打ったことは記憶にない。隠してきたわけではないだろうが、指揮官も指導者として成長してきたということだろう。

 大会前、常に日本サッカーの発展を願う森保監督は、自らが経験した「ドーハの悲劇」を「ドーハの歓喜」に変えると言った。まだ1試合が終わっただけだが、最善の準備をして、状況に応じた選択をし、あのドイツを破った。その過程を知れば、今回の勝利は奇跡ではない。あえて言うなら、「ドーハの必然」だろう。

(ライター・佐藤景)