昨年は2年連続で優勝を逃し、5年ぶりのBクラスに沈んだ巨人。これまでは優勝を逃せば大型補強を敢行するというのがお馴染みだったが、このオフは外国人選手以外ではソフトバンクを自由契約となった松田宣浩、広島から無償トレードで獲得した長野久義のベテラン2人と現役ドラフトで楽天から移籍したオコエ瑠偉くらいで、目立った補強は見られていない。

 元々実績のある選手は多いだけにAクラス争いに加わる可能性は高そうだが、優勝を狙うとなると若手の台頭が必要であることは間違いないだろう。そこで今回はまだそれほど注目度は高くないものの、今シーズンの飛躍が期待される巨人の若手生え抜き選手についてピックアップして紹介したいと思う。

 投手で真っ先に名前を挙げたいのが井上温大だ。2019年のドラフト4位で前橋商から入団。2年目のオフには肘の故障で一度育成契約となったものの、昨年は7月に支配下復帰を果たすと、9月23日の中日戦では一軍で初勝利もマークした。またシーズン後に行われたフェニックスリーグでも10月25日の広島戦では6回を1失点、11奪三振の快投を見せて首脳陣に強烈にアピールした。

 高校時代からフォームの良さは抜群で、プロ入り後に体作りが進んだことでボールの勢いも確実にアップしているように見える。スライダーも打者の手元で鋭く変化する必殺のボールで、昨年は一軍でも二軍でもイニングを上回る奪三振を記録した。フェニックスリーグではスライダーと対になるチェンジアップもレベルアップしているように見えたのは大きなプラス要因だ。

 今年から新たに一軍チーフ投手コーチに就任する阿波野秀幸氏に、コーチ就任発表前に話を聞いた時も巨人で期待する投手として真っ先に名前を挙げており、首脳陣の注目度も高い。昨年チームの左腕で最多の5勝をマークしたメルセデスが退団(ロッテに移籍)しただけに、キャンプ、オープン戦でアピールして開幕からローテーション入りを目指してもらいたい。

 昨年は救援防御率がセ・リーグ最下位とリリーフ陣に苦しんだが、そんな中で期待したいのが菊地大稀だ。2021年の育成ドラフト6位という低い順位でのプロ入りだったが、開幕から二軍で結果を残すと1年目の4月に早くも支配下登録を勝ち取っている。この成長ぶりには巨人のスカウト陣からも驚きの声が出ていたほどだった。

 一軍では16試合に登板して0勝2敗、防御率5.60と目立った成績を残すことはできなかったが、17回2/3を投げて21奪三振を記録。また二軍では抑えに定着して11セーブ、防御率2.42、奪三振率13.30と見事な成績を残している。長身から投げ込むストレートはコンスタントに150キロを超え、縦のスライダー、フォークと空振りを奪える決め球があるのは大きな魅力だ。走者を背負ってからの投球が改善できれば、勝ちパターンの中継ぎに定着する可能性も高いだろう。

 一方の野手で昨年開花の兆しを見せたのが増田陸だ。井上と同様に2021年のオフには一度育成契約となったが、昨年はキャンプ、オープン戦でアピールして3月には早くも支配下に復帰。5月には一軍で初ヒット、初ホームランを記録すると、夏場に成績を落としたものの69試合に出場して35安打、5本塁打、打率.250とまずまずの成績を残した。魅力は何といっても思い切りの良さで、35安打中11本が長打とパンチ力も申し分ない。

 昨年はファーストを守ることが多かったが、高校時代はショートだっただけに脚力と肩の強さも持ち合わせており、昨年の秋季練習からは外野の練習を続けている。ライバルは多いものの、全力でプレーするスタイルはチームに勢いをもたらすだけに、今年は1年を通じて一軍定着を目指したい。

 一軍で実績のない選手では身長2メートルの秋広優人に早くから注目が集まっているが、もう1人飛躍を期待したいのが今年4年目の菊田拡和だ。高校時代は“常総のバレンティン”の異名をとった右の強打者で、3年春にはセンターまで122メートルのJ:COMスタジアム土浦でバックスクリーンを超える特大アーチも放っている。

 プロ入り当初はなかなか結果が出ずに苦しんだが、昨年は二軍で秋広に次ぐチーム2位となる76安打を放ち、試合出場こそなかったものの7月には一軍初昇格も果たした。パワー自慢だが、意外に三振が少なく対応力も低くない。1年目から大きな故障がなく、順調に成績を伸ばしているというのも魅力だ。貴重な生え抜きの大砲候補だけに、首脳陣の期待も大きい。

 冒頭でも触れたように、大型補強はなくても実績のある選手は多く、若手にとってはレギュラー、一軍定着は簡単ではないが、去年は8人もの投手がプロ初勝利を記録するなど世代交代の機運が高まっていることは確かだ。将来のチームを考えても、今年は大きな転換期となる可能性が高いだけに、ここで紹介した以外からも大きく飛躍する選手が登場することを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。