2月1日のキャンプインに向けて新人合同自主トレのニュースが話題になる時期となった。高い注目を集めるのはやはりドラフト1位の選手だが、改めて昨年の1位選手を振り返ってみると、37セーブを挙げてセ・リーグの新人王を獲得した大勢(巨人)、佐々木朗希の完全試合をアシストした捕手の松川虎生(ロッテ)は存在感を示したものの、安定して一軍の戦力になった選手は少なかった印象だ。
そんな中で今年最も主戦になりそうな選手としては、やはり隅田知一郎(西武)の名前が挙がるだろう。ルーキーイヤーの昨年はプロ初登板、初勝利をマークしてからは10連敗を喫して1勝10敗という結果に終わったが、防御率は3.75と決して悪くない成績を残している。また奪三振率8.04という数字も10試合以上に先発した投手ではチームトップであり、特にスプリットとチェンジアップの落ちるボールはプロの打者にも十分通用するところを見せた。
結果がついてこなかった大きな原因は打線の援護にあり、援護率(9イニングで味方が何点取ってくれるか)は1.98。プロ初先発以外では、最高でも2点しか援護をもらっておらず、好投が報われなかった試合も非常に多かったのだ。なかなか勝てなかったことで自身の調子も落ちていったように見えたが、シーズン序盤に見せていた投球ができれば勝ちは自然とついてくるはずである。左の先発投手は外国人のエンスくらいしか実績のある選手がいないだけに、2年目は1年を通じてローテーションを守ることを目標にしてもらいたい。
同じく先発ローテーションとして期待がかかるのが山下輝(ヤクルト)だ。ドラフト指名後に左手尺骨を疲労骨折した影響でキャンプ、オープン戦はリハビリメニューとなり、実戦デビューは6月下旬までずれ込んだが、二軍では6試合に登板して3勝0敗、防御率1.59と見事な成績を残している。一軍でも2試合目の登板でプロ初勝利をマークすると、日本シリーズでは第5戦で先発投手に抜擢された。
隅田に比べると変化球の精度が低く、ストレートもコントロールを意識して少し抑え気味に投げているように見えるが、190cm近い長身から倒れ込むように投げ込むフォームは迫力がある。また大型サウスポーの割に意外と指先の感覚も良く、四死球で自滅するようなことがないのも大きな持ち味だ。ヤクルトも西武と同様に左の先発投手が不足しているだけに、今年はキャンプ、オープン戦からしっかり調整を進めて開幕ローテーション入りを目指したい。
一方、高校卒の選手でルーキーイヤーに二軍で最も結果を残したのが森木大智(阪神)だ。開幕当初から順調に登板を重ねると、二軍ではチーム5位となる53回を投げて防御率こそ4点台ながら4勝2敗と勝ち越して見せたのだ。7月に行われたフレッシュオールスターでもウエスタン・リーグの先発を任されると、1回を無失点、2奪三振と好投。シーズン終盤には一軍でも2試合に先発していずれも負け投手となったが、デビュー戦では最速154キロをマークするなど大器の片鱗を見せている。少しリズムが単調で、スピードの割に打者に合わされやすいのは高校時代からの課題だが、ボールの質自体は素晴らしいものがある。変化球のコントロールが向上し、相手を見ながら投げるようになれるかが今後のカギとなりそうだ。
もう1人注目したいのが高校生では一番人気となった小園健太(DeNA)だ。1年目はチームの方針もあって体力作りに終始し、二軍でもわずか3試合、4回2/3の登板に終わったがいずれも無失点とさすがの投球を見せている。またシーズン終盤には新型コロナウイルスに感染して一時戦列を離れたが、フェニックスリーグでは最速150キロをマークして復調ぶりをアピールした。高校時代から完成度が高かったことを考えると少し慎重すぎる起用のようにも見えたが、それだけ球団からの期待が大きいことは間違いない。今年は開幕から二軍で結果を残して、一軍デビューを期待したい。
ドラフト1位で指名された選手は入団した時の期待が大きいだけに、低迷が続くとプレッシャーも年々大きくなってくるのは確かである。2021年の1位指名選手は素材型でまだまだ今シーズンも育成がメインとなる選手も多いが、周囲を納得させるという意味でも、少なくとも1年目からの成長を感じさせるプレーを見せることは重要になってくるだろう。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。