吉田正尚選手が大リーグに挑戦する。日本人野手として最高額の5年総額120億円を超える破格の契約だ。大型契約の理由は何か。AERA 2023年1月23日号の記事を紹介する。

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 2023年は2人の日本人大リーガーが新たに誕生する。オリックスからポスティングシステムでレッドソックスに入団した吉田正尚(まさたか、29)、ソフトバンクから海外フリーエージェント(FA)権を行使してメッツに移籍した千賀滉大(こうだい、29)だ。

 両選手が球界を代表する選手であることに異論はないだろう。だが、吉田が昨年末に合意した契約内容は衝撃的だった。大リーグ公式サイトによると、日本人野手最高額の5年総額9千万ドル(約123億円、金額は推定で発表当時)。1年平均約24億円以上で、21年オフに契約更改した推定年俸4億円から約6倍の大幅アップとなった。

 日本人野手は大リーグで成功例が少ない。19年オフに大リーグ挑戦した筒香嘉智(つつごうよしとも、31)はレイズ、ドジャース、パイレーツを渡り歩いて通算打率1割9分7厘、18本塁打、75打点。日本で最多安打のタイトルを4度獲得した秋山翔吾(34)も19年オフに海外FA権を行使してレッズに移籍したが、昨年の開幕ロースターから漏れ、広島に途中入団した。また、21年夏の東京五輪で侍ジャパンの4番打者を務めた鈴木誠也(28)も、カブスに移籍した昨季は111試合出場で打率2割6分2厘、14本塁打、46打点にとどまった。

■選球眼に優れている

 吉田は首位打者を2度獲得するなど、日本野球機構(NPB)での通算打率3割2分7厘とミート能力がずば抜けている。だが、7シーズンで30本塁打をクリアしたことがない。ホームランアーティストの評価が高い米国でパワーヒッターとは言えない吉田に、なぜレッドソックスは破格の条件を提示したのか。米国駐在の通信員はこう振り返る。

「新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、大リーグの昨年の収益が過去最高となったことで各球団が補強費に回せるようになったことが大きい。昨季地区最下位に低迷したレッドソックスはチーム再建に向け、チャンスメイクできる打者が補強の最重要ポイントだった。吉田は安打を打つだけでなく、三振が少なく選球眼に優れている。出塁率が高いため1番打者に適任です。ただ、他球団から『評価が高すぎる』という声が上がっているのも事実ですけどね」

■2割8分が最低ライン

 レッドソックスは主軸を打っていた中心選手が次々に退団し、変革期を迎えている。新戦力として吉田、ベテランのジャスティン・ターナー(38)の加入が決まったが、「最下位の昨年よりチームが弱体化している」と地元ファンからはSNS上で冷ややかな声が目立つ。

「ターナーは全盛期を過ぎた選手。打線全体の小粒感は否めない。レッドソックスはヤンキースと並ぶ人気球団でファンの注目度が高い。活躍すれば称賛されるが、打撃不振が続くようだと容赦なくバッシングされる。吉田は外野の守備能力、走塁にたけているわけではないので打撃で結果を残すしかない。打率2割8分、15本塁打が最低ラインになるでしょう」(前出の米国駐在の通信員)

 だが、オリックスを取材するスポーツ紙記者は「吉田なら大丈夫でしょう」と活躍に太鼓判を押す。

「自分の世界を持っている選手で、打てなくてもペースが崩れない。ちょっと天然なところがあり、神経が図太いんですよね。落ち込んでいる姿を周りに見せない。気持ちの切り替えが早いのも、コンスタントに高水準の成績を残している秘訣(ひけつ)だと思います。150キロを超える直球をきっちり捉えられるのも強みです。常時スタメンで試合に出続けられる環境なら、打率3割をクリアできると思います」

(ライター・今川秀悟)

※AERA 2023年1月23日号より抜粋