日本サッカー協会が新たな日本代表のコーチに、昨年までJ3・松本の監督を務めていた名波浩氏と契約合意したことを17日、発表した。
カタールW杯ではグループリーグで優勝候補のドイツ、スペインに逆転勝利を飾り、決勝トーナメントに進出。クロアチアにPK戦の末に敗れて目標に掲げていたベスト16は達成できなかったが、W杯での手腕を評価された森保一監督は大会後に続投が決まった。
日本代表のスタッフは新たなフェーズに入った。森保監督の右腕として支えた横内昭展コーチが退任し、J2・磐田の監督に就任することが決定。新たに攻撃を構築する指導者を探していた中で、白羽の矢を立てたのが名波氏だった。
選手としての実績は申し分ない。正確無比な左足のパスでゲームメークし、90年代後半から00年代前半にかけて磐田の黄金時代を牽引した。セリエA・ヴェネツィアでもプレーし、日本代表では背番号「10」を背負って国際Aマッチ67試合に出場。中田英寿と共に中盤の軸となり、日本代表がW杯初出場した98年のフランス大会で、全試合スタメンで稼働した。
指導者に転身後は、古巣・磐田で14年から6年間監督を務めたが、19年に成績不振でシーズン途中に辞任。21年のシーズン途中に当時J2だった松本の監督に就任し、再建を託されたが低迷から抜け出せずにJ3に降格。昨季はJ2昇格の目標に届かず、契約満了で退任した。
スポーツ紙記者は、「名波さんはモチベーター。選手の人心掌握術には長けているけど、戦術面の構築に秀でているわけではない。松本でも能力の高い選手はそろっていたが、FW横山歩夢(現J1・サガン鳥栖)頼みのサッカーだった。中盤でのボール支配率が低く、ロングボールを蹴り込む単純な戦術だったので相手に読まれるようになり、攻撃が手詰まりになっていた。チームを勝たせる指導者ではないですね。日本代表は攻撃の引き出しが少ないため、プレーしている選手たちも危機感を覚えている。高度な戦術を組み込む必要がある中で、名波さんがその期待に応えられるか疑問です」と今回のコーチ人事に首をかしげる。
日本代表は粘り強い守備と鮮やかなショートカウンターでドイツ、スペインを撃破したが、このサッカーには限界がある。2戦とも前半を1失点で耐えたことが逆転勝利につながったが、2失点目を喫していたら大敗の危険性が十分にあった。また、グループリーグ2戦目のコスタリカ戦では、引いている相手の守備網に対して有効な攻撃ができず、0−1で敗戦。攻撃面で工夫のなさを露呈した。
日本代表を取材したサッカー編集者は「三笘薫、久保建英、堂安律、伊東純也、前田大然と能力の高いアタッカーがそろっている。代表から落選した古橋亨梧を含め、伸びしろが十分にある選手が多い。戦術の構築に時間がかかるかもしれないが、世界の強豪国相手にボールを保持するサッカーを目指すべきです。攻撃をデザインするコーチは欧州で有能な指導者が多い。外国人コーチを招聘するべきでは。海外のクラブでプレーしている選手が多いので、スムーズに対応できるでしょう」と指摘する。
4年後のW杯に向けての戦いは、もう始まっている。攻撃の戦術面を担当する名波氏は周囲の不安を払拭し、手腕を発揮できるか。(今川秀悟)
※週刊朝日オンライン記事