今年3月に行われる第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では大谷翔平選手(エンゼルス)をはじめとした日本人メジャーリーガーたちが多数参戦という朗報が届いた。そして、それと同等の驚きとインパクトをもたらしたのが日系メジャーリーガーとして初めてラーズ・ヌートバー外野手が日本代表に加わるというニュースだった。

 もともとWBCでは両親がルーツを持つ国であれば代表として出場が可能な場合もあり、これまでも殿堂入りの名捕手マイク・ピアザがイタリア代表としてプレーしたことはあったが、日本代表はこれまで日本国籍を持つ選手のみで構成されていた。それだけに画期的な方針転換と言っていい。

 25歳のヌートバーは母親が日本人。21年にカージナルスでメジャーデビューすると、22年は108試合出場で打率2割2分8厘、14本塁打、40打点、4盗塁だった。打率は低めだが出塁率3割4分が示すように選球眼がよく、8補殺をマークした強肩が示すように守備での貢献度も高い。起用法次第で貴重な戦力となってくれるだろう。

 前置きが長くなったが、今回はヌートバーの代表選出で注目度が高まった日系メジャーリーガーたちの歴史を振り返ってみようと思う。

 日本でおなじみの日系メジャーリーガーと言えば、21年からはエンゼルスで大谷とバッテリーを組んだこともあったカート・スズキ(日系3世)だろう。アスレチックスなどで長年に活躍した捕手で、ナショナルズ時代の19年にはワールドシリーズでホームランを放って優勝に貢献した。22年限りで現役引退を表明し、通算成績は打率2割5分5厘、143本塁打、730打点だった。

 このスズキやカイル・ヒガシオカ捕手(日系4世、ヤンキース)のように和風のファミリーネームならば日系だと分かりやすいが、ヌートバーのように母方が日本人の血を引いていると日系だと気づきにくいこともある。現在はドジャースを率いているデーブ・ロバーツ監督も実は日系の元メジャーリーガーだ。

 ロバーツは米軍人だった父と日本人の母親の間に沖縄で生まれた日系2世。現役時代は俊足の外野手としてドジャースなどで活躍した。彼のプレーで最も有名なのは、レッドソックス時代の2004年に見せた好走塁だろう。

 ア・リーグ優勝決定シリーズで宿敵ヤンキースに3連敗を喫して後がなくなったレッドソックスは、第4戦で1点を追う9回にロバーツを一塁走者の代走に出した。ここでロバーツは初球からいきなり二盗を成功。さらに2球後にはビル・ミラーのセンター前ヒットで同点のホームを踏んだ。盗塁に失敗すれば反撃ムードも断たれて敗退濃厚となるシーンで見事に決めたのは走塁のスペシャリストとしての面目躍如だった。

 これで息を吹き返したレッドソックスはこの試合をサヨナラ勝ち。勢いに乗って3連敗からの4連勝でヤンキースを下すと、ワールドシリーズでも86年ぶりの優勝を果たして「バンビーノの呪い」を過去のものとした。それもこれもロバーツの盗塁成功がターニングポイントだったのは間違いない。

 引退後は2015年途中にパドレスの代理監督を務め、メジャー史上初めて日本出身の監督に(日系の監督としてはマリナーズを率いたドン・ワカマツの方が先)。20年にはドジャースの指揮官としてワールドシリーズ制覇も達成している。

 活躍度で言えばナ・リーグMVPに輝いたクリスチャン・イエリチ外野手(ブルワーズ)。母方の祖父が日本人の日系3世で、曽祖父はNFLで活躍したフレッド・ジャークという家系の出身だ。

 17年の第4回WBCでは米国代表として優勝に貢献し、最優秀外野手にも選出。メジャーでは18年に打率3割2分6厘、36本塁打、110打点、22盗塁で首位打者とMVPに輝き、翌19年も打率3割2分9厘、44本塁打、97打点、30盗塁で首位打者を獲得した。

 この活躍が認められて20年3月に9年総額2億1500万ドル(約276億2000万円)の大型契約で契約延長。ただしその後の3年間は故障や不振が続き、昨季は154試合で14本塁打どまり。今季こそ完全復活が期待されている。

 今後が楽しみな日系メジャーリーガーでは、一時はヌートバーとともに日本代表入りもうわさされたスティーブン・クワン外野手(ガーディアンズ)。父方は中国系米国人で、母方が日本の血を引く日系3世だ。

 昨季にメジャーデビューするといきなり4試合連続3出塁以上というメジャー史上初の快挙を達成し、デビューから116球連続で空振りなしという驚異のバットコントロールを披露した。最終的には147試合の出場で打率2割9分8厘、6本塁打、52打点、19盗塁。ホームランは少ないが攻守に隙のない玄人好みの選手で、将来的には首位打者を狙える逸材だろう。

 この他にも、大洋(現DeNA)でもプレーしたマイク・ラム(ブレーブスほか)や、報復の危険球を巡って黒田博樹(ドジャースほか)と一触即発の乱闘寸前までいったことがあるシェーン・ビクトリーノ(フィリーズほか)、メジャー通算91勝のジェレミー・ガスリー(オリオールズほか)などがかつて活躍した。

 現役ではヌートバーやクワン以外にも前述のヒガシオカや、そのチームメートでもあるゴールドグラブ賞遊撃手のアイザイア・カイナーファレファ、17年のドラフト全体9位指名で通算50本塁打のケストン・ヒウラ内野手(ブルワーズ)などがいる。日本人メジャーリーガーだけでなく、彼らのような日系メジャーリーガーの今後の活躍にも注目だ。(文・杉山貴宏)