2023年シーズンの開幕へ向けて準備を進めるJ各クラブ。その中で、再びJ1舞台に戻ってきた新潟と横浜FCは上位争いに食い込むことができるのか。そしてJ2降格となった清水、磐田の静岡勢は1年での即J1復帰を果たすことができるのか。今季の「昇格」&「降格」の4クラブに注目したい。
昨季のJ2優勝を飾った新潟は、今季6年ぶりにJ1の舞台に挑む。J2では常にボールを保持して主導権を握りながら勝点84を獲得。リーグ最多の73得点(1試合平均1.74得点)でリーグ最少タイの35失点(1試合平均0.83)と攻守に完成度の高いサッカーを展開した。しかし、それはあくまでJ2での話。2021年のJ2を勝点91(75得点42失点)で優勝した磐田が1年でJ2逆戻りになったように、多くの昇格チームがJ1の壁に跳ね返されるケースは数多い。しかし、今年の新潟は強気だ。松橋力蔵監督は「J1仕様で自分たちの形を見失う形は取りたくない」と昨季の戦い方を「継続」するつもりだ。
その方針は今オフの補強を見ても明らか。町田から昨季J2で11得点7アシストと活躍したFW太田修介と左右のサイドバックでプレー可能なDF新井直人を加えた他は、現時点では新外国人として22歳の大型FWグスタボ・ネスカウ、23歳の左利きのサイドアタッカーであるダニーロ・ゴメスの若手ブラジル人2人を獲得したのみで、補強は必要最低限。本間至恩が昨夏に海外移籍し、高木善朗は昨年9月に前十字靭帯を損傷して全治8カ月のリハビリ中という不安はあるが、DF陣の連携に心配はなく、昨季9得点11アシストと躍動した伊藤涼太郎、切れ味抜群の20歳のドリブラー・三戸舜介とアタッカー陣は楽しみ。カギは昨季1トップを務めたFW谷口海斗が自身初のJ1舞台でどこまで働けるか。ブラジル人助っ人が活躍できなければ攻撃力不足に陥る危険性もあるが、しっかりとした戦術的ベースはあるだけに楽しみの方が大きい。
他方、J2を2位で1年でのJ1復帰を決めた横浜FCは、J1での再チャレンジへ向けて大きく「変貌」を遂げようとしている。元々、J2屈指の選手層の厚さを誇っていた中で今オフ、FC東京からMF三田啓貴、神戸からMF井上潮音、熊本からMF坂本亘基、東京VからDFンドカ・ボニフェイスといった実力者たちを獲得し、高いボール奪取能力を持つMFユーリ、左利きのアタッカーであるMFカプリーニの新外国人も獲得。ここにDF近藤友喜ら即戦力の大学生組とDFヴァン・イヤーデン・ショーンらのユース昇格組、さらにレンタル組も加わり、1月の新体制会見には実に20人が新加入選手として登壇した。
極端な変化はリスクを内包するが、昨季41試合でリーグ最多の26得点を奪ったエースFWの小川航基とビッグセーブ連発の守護神GKブローダーセンが残留。シャドー役で昨季4得点11アシストと機能した長谷川竜也も健在で、各ポジションの「軸」は変わらない。まずはキャンプ期間中に選手間の連携、コンビネーションを深めてチームとして一体感をいかに作れるか。3バックか4バックかのシステム面も含めて早い段階でチームの形を作ることが重要になるが、四方田修平監督が昨季同様に優れた手腕を発揮できれば、J1でも中位を争える力はあるはずだ。
降格組はどうか。最終節でJ2降格の憂き目にあった清水は、1年での「即J1復帰」を至上命令に新シーズンに臨む。今オフの退団者には、DF立田悠悟、DF片山瑛一、MF原輝綺、MFヤゴ・ピカチュウといった主力組が含まれたが、名古屋からサイドバックの吉田豊、柏からセンターバックの高橋祐治と経験豊富な2人を獲得。選手個々の能力はJ2トップだろう。だが、MF鈴木唯人の海外移籍が決まり、さらにGK権田修一、MF松岡大起、FWチアゴ・サンタナの3人の去就が不透明なまま。彼らが今後、他のクラブへ移籍するようだと状況が一気に変わってくるだろう。
いずれにしても、昨季34試合で54失点(1試合平均1.59失点)の守備陣を立て直しは不可欠になる。昨季は結局、ゼ・リカルド監督の就任前の1試合平均1.5失点(16試合で24失点)が、就任後は1試合平均1.67失点(18試合で30失点)と悪化。ロスタイムの失点が多く、失点数だけで守備力を評価することはできないが、DFラインのメンバーも変わった中で昨季とは異なるアプローチは必要になる。「2022年シーズンに起こってしまったことを教訓に変えて、バランスよく修正を図り、同じミスをしないようにハードワークしていきたい」とゼ・リカルド監督は語る。試合の“締め方”を整え、しっかりと“勝ち癖”をつけられるか。監督続投のまま、昨季からの「修正」がテーマになる。
同じく“サッカー王国”静岡を背負いながらもJ2降格となった磐田は、今までにない異例のオフを過ごした。理由はファビアン・ゴンザレスの契約を巡ってFIFA(国際サッカー連盟)から補強禁止処分の裁定を下されたこと。それ故に、新体制発表に出席した選手はユースからの飛び級昇格となったFW後藤啓介のみとなった。だが、その中でもDF鈴木海音、中川創、MF針谷岳晃、藤川虎太朗と昨季J2、J3でプレーした4人をレンタルバックさせるとともに、昨季6得点4アシストのMF鈴木雄斗やブラジル人DFのリカルド・グラッサ、そしてベテランのMF遠藤保仁など、所属選手たちとの契約更新に成功。退団者は3選手のみで、J1を戦った昨季の戦力を維持した状況で新シーズンを迎える。
そのチームを指揮するのは、日本代表のコーチで森保一監督の参謀役だった横内昭展新監督。「そんなに簡単な状況ではないと思いますが、目標に向かってチーム一丸クラブ一丸で目標に向かってまい進していきたい」とJ1舞台で得失点差−25の最下位だった“惨敗”からの立て直しを図る。守備組織を再構築させた上での得点力不足の解消が大きなテーマ。J1舞台で悔しさを味わった選手たちが、自信とプライドを取り戻して「再起」できるか。戦力的にはJ2の中では間違いなく上位であり、チームの団結力という点では“補強禁止”をプラスに作用させることも可能。横内監督の手腕の見せどころだ。
昨シーズンからの「継続」を宣言してJ1舞台に挑む新潟と、昨季から大きく「変貌」して躍進を狙う横浜FC。その一方で、昨季の課題を「修正」して臨む清水と、新監督の下で「再起」を図る磐田。昇格および降格組の新シーズンを予想する難しさは今季も同じだが、異なるアプローチの4クラブがどのような結果を残すのかは非常に興味深いところだ。2024年シーズンからのチーム数調整(J1〜J3のクラブ数を20チームに統一)のために、今季はJ1からJ2に降格するのが1チームとなり、J2からJ1への昇格が3チームに増えることが決まっている。その意味でも、今季はこれまで以上に重要で、今後のクラブの命運を分ける大事なシーズンになる。(文・三和直樹)