今月1日から始まったプロ野球の春季キャンプも中盤戦に入り、新戦力の評判が聞かれる時期となってきた。
フリーエージェント(FA)やトレードで加入した選手、または即戦力としての活躍が期待されるドラフト1位ルーキーなどの話題がどうしても多くなるが、その一方で注目度こそ低いものの意外に戦力となる可能性を秘めているのはオフに自由契約となって移籍した選手たちだ。中には力はありながらも、旧所属球団のチーム事情から出番に恵まれなかったケースもあり、環境が変わったことで飛躍が期待できる選手もいるはずだ。そんな隠れた“再生”候補を探ってみたいと思う。
投手でまず名前が挙がるのが、ともにヤクルトに入団した尾仲祐哉(前阪神)と沼田翔平(前巨人)の2人だ。尾中はDeNAで1年プレーしただけで、大和のFA移籍に伴う人的補償で阪神へ移籍。阪神での実働4年間はわずか22試合の登板で0勝に終わった。ただ、過去2年間の二軍での成績を合計すると60試合、56回を投げて自責点13、58奪三振とリリーフとして安定した成績を残している。上背はないもののストレートは150キロ近いスピードがあり、鋭く変化するカットボール、フォークで空振りを奪えるのは大きな魅力だ。投手陣の充実している阪神ではなかなかチャンスがなかったが、まだまだ戦力となる可能性は十分にあるだろう。
一方の沼田も育成ドラフト出身ながら2年目には早くも支配下を勝ち取った本格派右腕。一軍では結果を残すことができず、昨年の二軍での成績も防御率3.81と安定感には少し欠けるものの、26回を投げて30奪三振というのは魅力だ。躍動感あふれるフォームでストレートは勢いがあり、今年で23歳とまだまだ若いだけに今後の成長も期待できる。ヤクルトでも育成契約でのスタートとなったが、近年も近藤弘樹、小澤怜史が育成選手として入団しながら一軍の戦力となっているだけに、沼田もチャンスをつかんで這い上がりたいところだ。
まだ潜在能力を発揮しきれていない投手という意味では小野泰己(阪神→オリックス育成)も面白い。2016年のドラフト2位で阪神に入団し、2年目の2018年には先発として7勝をマーク。しかしその後は制球難に苦しんで年々登板機会が減少し、昨年はわずか5試合の登板に終わっている。二軍での成績を見てみると28回2/3を投げて32四死球とコントロールに大きな課題を抱えていることは確かだが、春先に一軍で登板した際にはコンスタントに150キロ台中盤をマークしており、そのスピードは大きな魅力だ。育成契約でのスタートにはなるものの、投手育成に定評のあるオリックスで何かきっかけをつかめば一気にブレイクすることも期待できそうだ。
実績のある投手で期待がかかるのが三上朋也(DeNA→巨人育成)だ。DeNAでの9年間で通算346試合に登板して23セーブ、114ホールドをマークするなどリリーフとして活躍。ここ数年は故障もあって成績を落としているが、豊富な経験は大きな武器で、昨年も二軍では好投している。本拠地が近く、同じセ・リーグ球団への移籍という点も三上にとってはプラス要因ではないだろうか。チームも昨年はリリーフ陣の不振に苦しんだだけに、百戦錬磨の三上の加入はプラスとなりそうだ。
一方の野手は投手に比べると他球団での現役続行を勝ち取った選手は少ないが、そんな中で最も注目度が高いのはやはりソフトバンクを自由契約となり巨人に入団した松田宣浩になるだろう。長年常勝軍団のチームリーダーとして活躍していたが、プロ17年目の昨年は若返りを図るチームの方針もあって出場機会が減少。プロ入り後初のホームラン0に終わり、オフには現役続行を希望してチームを退団することになった。巨人のベテランの右打者は中島宏之と5年ぶりの古巣復帰となる長野久義もいるため出場機会を得るのは簡単ではないが、常に優勝争いの中でプレーしてきた経験は貴重であり、体力的な衰えはそこまで感じないだけに復活にかかる期待も大きい。
野手でもう1人面白い存在になりそうなのが三ツ俣大樹(中日→ヤクルト)だ。プロ12年、実働10年で230試合出場、69安打にとどまっているが、過去2年はともに58試合に出場するなど存在感を示している。特に二遊間を中心に内野であればどこでもこなすことができ、高い守備力は大きな持ち味だ。ヤクルトは昨年、長岡秀樹が大ブレイクしたがまだまだ若く、セカンドの山田哲人、サードの村上宗隆もWBCに出場することで負担が大きいことを考えると、貴重なバックアップ要員として期待できるだろう。
近年では今野龍太(楽天→ヤクルト)、加治屋蓮(ソフトバンク→阪神)、茶谷健太(ソフトバンク→ロッテ)などが自由契約から他球団での契約を勝ち取り、今ではチームに欠かせない存在となっている。今年も彼らのようにどん底から這い上がってくる選手が出てくることを期待したい。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。