現在NPBで最もエースらしい投手と言えば、やはり山本由伸(オリックス)になるだろう。2年連続で投手四冠(最多勝・最優秀防御率・最多奪三振・最高勝率)に輝き、8日から開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも先発の中心として考えられている。しかしその一方で、毎年のようにエースとなることが期待されながらも、なかなか殻を破ることができない投手がいることも事実だ。今回は今年こそブレイクを期待したい“万年エース候補”を探ってみたいと思う。
現在、このテーマに最もマッチする投手と言えば今井達也(西武)になるのではないだろうか。作新学院時代は3年夏に甲子園優勝投手となり、ドラフト1位で西武に入団。プロ2年目の2018年には早くも5勝をマークしたものの、その後の成績は7勝、3勝、8勝、5勝と殻を破れないシーズンが続いている。ただ、昨年は度重なる故障で過去5年間で最少の9試合の登板に終わったものの、全試合で5回以上を投げ切り、クォリティスタート(6回以上を投げて自責点3点以内)も8試合を記録した。
防御率も2.41と内容的には最も安定していたことは間違いない。ストレートはコンスタントに150キロ台中盤をマークするスピードがあり、スライダー、カットボールなどの変化球もボールの質自体は素晴らしいものがあるだけに、あとは状態を維持できるかということがポイントとなる。現在チームのエースとして活躍し、今年も開幕投手に内定している高橋光成がメジャー挑戦の意向を明らかにしているだけに、来年以降の投手陣を考えても今年こそ今井の一本立ちを願うファンは多いはずだ。
近年はトミー・ジョン手術を受ける投手も増えているが、今シーズン本格的な復帰が期待されるのが種市篤暉(ロッテ)だ。ドラフト6位での入団ながら3年目の2019年には8勝をマークするなどブレイク。しかし翌年にトミー・ジョン手術を受け、1年以上実戦から遠ざかることとなった。
昨年ようやく復帰し、一軍での登板は1試合に終わったものの、二軍では16試合に登板して6勝2敗、防御率2.89という成績を残している。シーズン後のフェニックスリーグであえてリリーフを経験したことでこのキャンプではスピードがかなり戻ってきており、2月26日の西武とのプレシーズンマッチでは4回を投げて9奪三振をマークするなど順調な調整ぶりを見せている。チームには佐々木朗希もいるが、順調にいけば近い将来にメジャー挑戦というのが既定路線と見られており、そういう意味でも種市にかかる期待は大きい。今シーズン、佐々木と種市が先発ローテーションでフル回転するようなことになれば、他球団にとっても脅威の存在となることは間違いないだろう。
移籍をきっかけにブレイクに期待したいのが田中正義(日本ハム)だ。2016年のドラフトでは5球団が競合する目玉投手だったものの、度重なる故障でソフトバンクでの6年間では1勝もあげることができず、昨年オフに近藤健介の人的補償で日本ハムに移籍することとなった。ただ昨シーズンの終盤にはリリーフで安定した投球を見せており、状態はかなり良くなっているように見える。このキャンプでは先発としての調整を続け、2月25日の楽天とのオープン戦では最速157キロもマークしている。これまでも調子が良いと思われたら故障ということの繰り返しだっただけに、まずはしっかりオープン戦を乗り切ることが第一目標となるが、万全の状態で開幕を迎えることができれば、大きな戦力となる可能性もありそうだ。
セ・リーグでは昨年もこの企画で取り上げた床田寛樹(広島)を再び推したい。昨シーズンは開幕から好調を維持し、前半戦だけで自己最多となる8勝をマークするなど安定したピッチングを続けていたが、8月3日のDeNA戦で走塁の際に右足を骨折。長期離脱となり、そのままシーズンを終えることとなった。このアクシデントさえなければ二桁勝利はもちろん、タイトル争いに絡んでいた可能性もあっただけに、相当悔しい1年となったはずだ。
昨年のWHIP(1イニングあたりの被安打+与四球)は1.01をマークしており、先発投手としてかなり高い水準の数字をマークしている。また、2月26日の中日とのオープン戦でも安定したピッチング(2回を1安打、2奪三振、無失点)を見せたこともプラス材料だ。今年こそは昨シーズンの悔しさを晴らし、左のエースとしてシーズンを通してフル回転で活躍してくれることを期待したい。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。