NBA屈指の人気チーム・LAレイカーズへ移籍した八村塁。レブロン・ジェームズ擁するスター軍団の中で、地元ファンが八村に期待することとは。AERA 2023年3月13日号より紹介する。

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「あの日、瞬きもせずにシュートの軌道を見つめていた。ゴールにボールが吸い込まれた瞬間、思わず跳び上がったよ」

 そう語るのは、高校教師のトロイ・ダーク(37)だ。ロサンゼルスで育った彼は、地元のNBAバスケチーム、LAレイカーズのスター選手レブロン・ジェームズが、カリーム・アブドゥル・ジャバーの持つ「3万8387点」というNBA歴代最多得点記録を39年ぶりに破った2月7日の試合会場にいた。

■貧困層出身の大スター

「絶対に生で記録達成の瞬間を見る」と決めていた。記録がいつ破られてもいいように、LAでの試合は全て生で観戦した。

「シーズンチケットを持つ友達と協力し合ったり、個別チケットを買ったり。自分が子どもの頃、うちの両親は金銭的に苦しくてレイカーズのチケットを買えなかった。大人になった今、当時の夢を自分で叶えているんだ。試合会場に住みたいぐらい」

 ダークは働きながら教育学修士号を取得し、昼は高校で理科を教え、放課後や夏休みは発達障害を持つ大人の支援クラスで教えて、チケット代を捻出した。

「レブロンがあの日、黒いスーツでビシッと決めて試合会場に現れたのを見て、あ、今日記録を破るなと直感した」と言う。

 レブロン・ジェームズに入れ込むのはなぜかと彼に聞くと、「バスケットボールIQの高さが群を抜いている」と即答した。

「自分だけが得点すればいいという自己中心的な態度が一切なく、パスが職人芸的に巧い。彼の十八番であるダンクももちろん魅力だけど、年齢と共に跳躍力が衰える中、それを補い、ゲームを構築する知性があるんだ」

 記録達成後の2月15日にLAで行われた試合に、ダークは甥や教え子たち25人分のチケットを買って若い彼らを招待した。

「レブロンはオハイオ州の貧困地帯で16歳の若いシングルマザーのもとに生まれた。そんな彼がNBAの大スター選手になれた確率は驚異的だ。彼は貧困生活に苦しむ子どもたちの存在を今も忘れず、金銭援助を欠かさない。学校も建設した。教育者として尊敬しているよ」

■塁なら18点は取れる

 同じく地元ファンであるマーティン・クエヴァ(22)にとって、人生のヒーローはキャリアをLAチームで終始一貫したコービー・ブライアントだ。

「9歳でNBAの試合を見始めた自分にとって、マイケル・ジョーダンやカリームの偉業は教科書で学ぶ歴史だ。コービーこそが自分の時代のスターで、彼のジャージに一体いくらバイト代をつぎ込んだことか」と語る。

 そのブライアントが引退後の2020年1月にヘリコプター事故で死去すると「胸が潰れた。今でも彼のことを思い出さない日はないぐらい」と語る。

 そんな中、かつてブライアントの最強のライバルのひとりだったオハイオ州出身のジェームズが、レイカーズの新しい主力選手として同年の秋に優勝トロフィーをLAに持ち帰った。

「レブロンに心から感謝したよ。傷心で落ち込む自分を救ってくれた。レブロンは最優秀選手だと確信したよ。自分の心の中のコービーは生き続けるけど」

 マジック・ジョンソンのファンでレイカーズの選手たちを40年以上見てきたベンジャミン・シモンズ(45)は「にわかファンではない立場で言わせてもらえば、八村塁に期待している。彼の大学時代から見てきたが、コンスタントに18点ぐらい得点できる力はある。レブロンとしても、彼を得点源として頼りにしたいはずだよ」と語る。

 クエヴァも「最初の試合で塁は少しナーバスに見えたけど、もうチームに馴染んでる。ハッスルする塁が大好きだ。レブロンがいる安心感を利用して細かいことを気にせず、どんどん積極的に攻めてほしい」と語る。(在米ジャーナリスト・長野美穂)

※AERA 2023年3月13日号