ここ数日の野球の話題と言えば8日に開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が中心となっているが(日本の初戦は9日)、レギュラーシーズンに向けてのオープン戦も本格化してきている。今年のWBCはNPB全12球団から代表選手が選ばれており、その選手の負担を考えてもこの期間に底上げを狙いたいチームも多いはずだ。ここまでのキャンプ、オープン戦で一軍定着、レギュラー獲得に向けてアピールしている“新星候補”にはどんな選手がいるのだろうか。
投手でまず楽しみな存在となりそうなのが高校卒3年目の山下舜平大(オリックス)だ。2020年のドラフト1位で指名されてプロ入りしたが、高校時代は将来を考えてあえてカーブ以外の変化球を封印していたことでも話題となった大型右腕である。過去2年間は二軍でも目立った結果を残していないが、昨シーズン終盤は安定感が増したことで、クライマックスシリーズの先発候補としても名前が挙がっていた。
昨年11月に両足首の手術を受けたこともあってキャンプでも慎重な調整となっていたが、今年初の対外試合登板となった3月4日の阪神とのオープン戦では1回をわずか7球で三者凡退、1奪三振と見事な投球を見せている。結果はもちろん素晴らしかったが、それ以上に強烈だったのがその内容だ。先頭の島田海吏には157キロ、157キロ、158キロとストレートを3球続けて空振り三振を奪うと、その後のストレート3球も全て156キロ以上をマーク。試合後にはバッテリーを組んだ新加入の森友哉、対戦相手となった岡田彰布監督からも称賛の声が聞かれた。
長いイニングでのスタミナや、阪神戦ではフォーク1球しか投げなかった変化球などはまだまだ不透明な部分はあるものの、ストレートに関しては既に一軍でもトップレベルの力がある印象を受ける。エースの山本由伸が近い将来メジャーに移籍する可能性が高いと言われているだけに、次世代のエース候補として今年は一軍でもある程度の結果を残すことを期待したい。
パ・リーグの投手でもう1人挙げたいのが2年目の廣畑敦也(ロッテ)だ。一昨年の社会人ナンバーワン投手の呼び声高かった右腕で、即戦力としての期待も高かったが、ルーキーイヤーの昨年は30試合に登板して0勝1敗0セーブ2ホールド、防御率4.91という結果に終わっている。所属していたチームの練習時間が少なかったこともあってか、体力的な面にも苦しんだように見えたが、2年目の今年はキャンプから順調にアピールを続けている。
3月4日のヤクルト戦でも2番手で登板すると、3回を打者9人パーフェクト、2奪三振と結果を残して見せた。コーナーに投げ分けるコントロール、打者の手元で鋭く変化するカットボール、緩急をつけるカーブなど変化球のレベルも高い。現在の状態を維持することができれば、開幕ローテーションに入ってくる可能性も高いだろう。
野手でここまで強烈なアピールを見せているのが高校卒5年目の濱田太貴(ヤクルト)だ。昨年はキャリアハイとなる73試合の出場、6本塁打という成績を残した。今年のキャンプでは二軍スタートだったものの、状態をしっかり上げて2月下旬には一軍合流。3月5日までのオープン戦4試合で15打数6安打、ホームラン1本を含む長打4本と持ち味である長打力を十分にアピールしている。今年から本格的に外野と併用になる内山壮真も2月26日の楽天とのオープン戦で2本塁打を含む4安打、7打点と見事な活躍を見せているが、本職の外野手としては負けたくないところだろう。
ルーキーの野手では二刀流の矢澤宏太(日本ハム)、外野のレギュラーとして期待がかかる蛭間拓哉(西武)といったドラフト1位組の注目度が高いが、ここへ来て評価を上げているのがともに下位指名での入団となった内野手の門脇誠(巨人)と田中幹也(中日)の2人だ。
門脇は高校1年春から大学4年秋まで公式戦全試合にフルイニング出場した経歴を持ち、この春のキャンプも一軍で完走。上背はないものの好守に力強さがあり、初のオープン戦となった2月23日のヤクルト戦でもいきなりマルチヒットを記録する活躍を見せた。守備範囲の広さと強肩も大きな武器で、ショートとしての評価も日に日に高まっている。坂本勇人の後釜が大きな問題となっているチームの中で、その一番手に浮上してくる可能性は十分にありそうだ。
一方の田中も東海大菅生時代から高い守備力とスピードが注目されており、亜細亜大でも4年春にはキャプテンとしてチームを日本一に導いている。潰瘍性大腸炎を患ったことと、小柄な体がネックとなってドラフトでの指名順位は低くなったが、キャンプから持ち味の守備と走塁を存分にアピール。侍ジャパンとの強化試合でも2試合で3安打、2盗塁をマークし、セカンドの守備でも見事なプレーを見せた。打撃の非力さは課題だが、守備と走塁に関しては既に一軍でも上位のレベルにあるだけに、体調面さえ問題なければ開幕一軍、そしてスタメン争いに加わることも期待できそうだ。
昨年も投手では大関友久(ソフトバンク)、高橋宏斗(中日)、野手では岡林勇希(中日)、長岡秀樹(ヤクルト)、上川畑大悟(日本ハム)などが一気に主力となり、今ではチームに欠かせない存在となっている。今年も彼らのように、一気にスターダムへと駆け上がる選手が出てくることを期待したい。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。