3月8日に開幕する野球の国際大会、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。大谷翔平(エンゼルス、28)やダルビッシュ有(パドレス、36)の参加で優勝が期待されるが、WBC使用球に苦戦する投手が多いなど気掛かりな点もある。AERA 2023年3月13日号の記事を紹介する。

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 2月25日、26日の強化試合・ソフトバンク戦(サンマリン)では、何人かの選手が悪送球するなど守備陣にも課題が残る。さらに、チーム構想に関わる想定外のアクシデントが起きた。鈴木誠也(カブス、28)が米国でのキャンプ中に左脇腹を痛めたのだ。金メダルを獲得した21年夏の東京五輪では4番打者。右の貴重な長距離砲で、右翼の守備能力も高い。出場辞退が28日に発表され、他選手を追加招集する必要に迫られた。

 スポーツ紙デスクは言う。

「シーズンに向けて調整しているなか、WBCに緊急招集されることは大きな覚悟が必要です。チームとしてもケガのリスクがあるなかで、簡単には首を縦に振れないでしょう」

 そのなかで選ばれたのが内外野を守れる牧原大成(ソフトバンク、30)だ。3月1日に発表された。昨季は120試合に出場し、打率3割1厘、6本塁打。俊足で、守備力にも定評がある。

 鈴木が不在となり、打線の編成も変わる。同じ右の長距離砲の山川穂高(西武、31)、岡本和真(巨人、26)をどう起用するか。左翼に岡本、中堅にラーズ・ヌートバー(カージナルス、25)、右翼に吉田正尚(まさたか)(レッドソックス、29)を起用する超攻撃的布陣も考えられる。岡本は本職が三塁だが、巨人でも過去に左翼を守った経験があり、この合宿でもそつなくこなしている。

 だが、不慣れなポジションを守ることはリスクも伴う。思い出されるのは08年の北京五輪だ。当時の星野仙一監督率いる日本代表は金メダル獲得を目指し、G.G.佐藤(当時西武)が追加招集された。本職の右翼は稲葉篤紀(当時日本ハム)が不動のレギュラーだったため、左翼を守ることに。だが、準決勝の韓国戦で二つの失策を犯してチームが敗れると、3位決定戦・米国戦でも左翼でスタメン起用されて落球するなど失点に絡み、日本はメダルを逃した。

■本職の選手が守るべき

 あるプロ野球OBが指摘する。

「同じ外野でも右翼、左翼は見える風景、打球の切れ方、捕球してから送球までの動き方など全く違う。複数のポジションを守れる選手は貴重ですが、大きな重圧がかかる国際試合では本職の選手が守るべきです」

 守備のほころびをいかになくすかが、頂点に立つポイントになりそうだ。

 他国を見ると、大会連覇を狙う米国が間違いなく優勝候補筆頭と言える。ただ、史上最強とは言えない。不安を抱えているのは投手陣だ。昨年、アストロズで自身3度目のサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を受賞したジャスティン・バーランダー(メッツ、40)のほか、ディラン・シース(ホワイトソックス、27)ら旬の投手たちは軒並み参加していない。通算197勝左腕のクレイトン・カーショー(ドジャース、34)も出場辞退に。WBCに出場する際に保険に入らなければならないが過去の故障歴がネックとなり、保険会社の審査が通らなかったという。昨季12勝のネスター・コーテズ(ヤンキース、28)も右太もも痛で辞退した。

「先発の一線級で活躍している投手はなかなか代表に招集できない。野手に比べて故障のリスクが高いし、手術明け、FA(フリーエージェント)前の選手はシーズンに影響を及ぼすことを考えて、WBC参加に慎重になる。カーショーのように出場を熱望していてもかなわないケースがある。保険会社による審査のハードルも高いと言われています」(米国駐在の通信員)

 同じく優勝候補のドミニカ共和国も予備登録50人のうち18人に所属球団の参加許可が出ていないと報じられ、ルイス・カスティーヨ(マリナーズ、30)ら大リーグで活躍する先発陣4人の出場辞退も伝えられた。1次リーグでベネズエラ、ニカラグア、イスラエル、プエルトリコと対戦予定で、敗退の可能性がゼロとは言えない。

 だが、「死の組」を勝ち抜けば、その勢いで頂点に立つ力を持っている。準決勝、決勝は昨季ナ・リーグでサイ・ヤング賞を受賞したサンディ・アルカンタラ(マーリンズ、27)、昨季11勝とブレークしたクリスチャン・ハビエル(アストロズ、25)の両投手が先発する可能性が高い。

 打線は21年に大谷との熾烈(しれつ)な本塁打王争いを制したウラジーミル・ゲレロ(ブルージェイズ、23)は出場を辞退したものの強打者たちが勢ぞろい。破壊力は「米国よりも上」の声が上がる。

■準決勝で米国と激突か

 侍ジャパンは順当に勝ち上がれば、準決勝で米国と激突する。この強敵を倒しても決勝はドミニカ共和国と対戦する可能性が高い。栗山英樹監督は一昨年12月の就任会見で、WBCに向けてこのように語っている。

「金メダルを取ったオリンピックの感動、日本の野球はすごいなとみんなが感じたと思います。うれしかったし、僕らも感動した。大リーガーたちが出てくる戦いのなかで、米国を含めたチームを打ち破って頂点に上り詰めることを野球ファンはみんな待っていると思います。それが現実になるようにしたい。なんとか勝ちきって選手の思いや選手たちのすばらしさ、日本野球のすごさを伝えられるように全力を尽くしていきます」

(ライター・今川秀悟)

※AERA 2023年3月13日号より抜粋