明日にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)侍ジャパンの初戦を控え、日本中が盛り上がりを見せている。一方でNPB各球団も3月末のシーズン開幕へ向けての準備に奔走している。万全な状態でスタートダッシュを切るため、開幕前に“動くチーム”があるかも注目されている……。
世間の関心は侍ジャパンに集まっているが、水面下でNPB球団の思惑が錯綜している。今季はWBCがあり通常のシーズンとは違うが、それが各チームの補強に影響を与えるかもしれないという意見もある。
「WBCに参加した選手が同年に調子を落とす例は過去にもあった。国の代表として戦ったことで肉体、精神の疲労が蓄積しても無理はない。各球団、シーズン開幕直後のスタートダッシュを大事にする。リスクヘッジも含め、開幕直前に補強に動くチームもあるかもしれない」(在京球団編成担当)
過去には、2006年の第1回大会に出場した渡辺俊介(当時ロッテ)や、2017年の第4回大会で侍ジャパンのメンバーとして戦った山田哲人(ヤクルト)など、WBC後に大きく成績を落とした選手も少ないくない。それを見越して動く球団が出てくるとも考えられる。
また、先日には日本ハムの右腕・西村天裕と、ロッテの内野手・福田光輝のトレードが成立するなど、シーズン前という時期でも必要と考えれば、補強に動くチームも増えてきた印象を受ける。
「開幕直前まで補強に動くことの重要性も見直されている。ヤクルトをリーグ優勝に導いた田口麗斗が良い例だった。キャンプ、オープン戦と進む中でチームに必要なことが明確化する。そこで効果的な補強ができれば優勝争いができることを証明した」(ヤクルト担当記者)
2021年シーズン開幕前の3月に成立した田口(巨人→ヤクルト)と廣岡大志(ヤクルト→巨人)の“電撃トレード”はリーグの勢力図に大きな影響を与えた。田口は巨人時代に先発、中継ぎの両方をこなせる左腕として重宝されていたが、ヤクルト移籍後はリリーフに固定されてから抜群の安定感を見せ、昨季はチームの2連覇に大きく貢献した。
この時期に主力が動くことは考えにくいが、田口のように移籍すれば決して小さくないインパクトを与えられる選手は少なくない。特に能力がありながら、チーム事情で“くすぶる”可能性のある選手には注目が集まっている。
「糸原健斗(阪神)と小林誠司(巨人)の動向は気になる。糸原は内野の守備力は高くないものの、打力は素晴らしい。打線のどこででも使えるのでDH制があるパ・リーグでも面白い。また小林の捕手としての能力は言うまでもない。経験豊富なベテランの域に入っているので、控えにしておくのはもったいない」(在京球団編成担当)
30歳の糸原は右投左打で、内野ならどこでも守れるユーティリティ性はあるが守備範囲の狭さがネックになっている。打撃では力強いスイングには定評があるものの、昨年の秋季キャンプに不参加だったことから、今季はチームで“冷遇”されるのではないかという見方もある。
一方、2013年のドラフト1位で入団した33歳の小林も、侍ジャパンに選出された正捕手の大城卓三に次ぐ“2番手”の扱い。さらに、チームには岸田行倫ら期待の若手捕手も多く、打撃難の小林はさらに厳しい状況に追い込まれる可能性もある。だが、糸原と同じく弱点はあるものの“強み”もあるだけに、他球団からの狙い目となる可能性もあるだろう。
「他にも広島捕手陣の動きは気になる。今季は坂倉将吾が捕手一本での勝負を明言している。3連覇時の正捕手だった会沢翼をはじめ、勝負強い打撃が魅力の磯村嘉孝、強肩と堅実さが強みの石原貴規、正念場の中村奨成のうち何人かは二軍暮らしになってしまう」(在京球団編成担当)
年齢的な問題もあり会沢のフル出場が難しい中、天才的な打撃を誇る坂倉が台頭。今季から内野手との兼務をやめ捕手専任となるため、チームは今まで以上に捕手が余剰となる。坂倉の状態とチームの補強ポイント次第ではあるが、他球団にとっては魅力的に映る選手も多く、今後に動きがあってもおかしくないという。
また、キャンプ、オープン戦と続いていく中で不測の事態も起き、選手によっては好不調の波も生じる。巨人では中島宏之が紅白戦で堀岡隼人から右手親指に死球を受け骨折するなど離脱者も出た。
「(巨人は)何か起きても常に対応できるように十分なコマを揃える準備がある。FAなどで大型補強ではなくとも、何かあればすぐに動けるようにしているはず」(巨人担当記者)
新庄剛志監督の就任以来、日本ハムはトレードを増やしているが、かつては“チームに必要のない選手”を放出するというイメージのあったトレードも、今では適材適所の補強をするための手段として見方も変わってきている。今後もシーズン開始前を含め支配下選手の登録期限までは、各球団が補強に動く可能性は高いと見て良いだろう。
「知名度がある選手に動きがあればNPBへの注目度も高まる。WBCでの世界一、そしてNPBの移籍市場が活発化すれば、かなりの盛り上がりが期待できる」(在京テレビ局スポーツ担当)
トレードは単純な戦力補強だけではなく、移籍に動いたチームや選手への注目が増すのも利点だ。そういった意味でも阪神・糸原、巨人・小林などは注目度も高く、狙い目にもなってくるのではないだろうか……。近年、活性化してきたトレード市場。今季もWBCに注目が集まる中で、開幕前に動きがあるかなど目が離せない状況が続く。