いよいよ8日に開幕したワールドベースボールクラシック(WBC)。今年メジャー1年目となる千賀滉大(メッツ)は招集が見送られ、わき腹を痛めた鈴木誠也(カブス)は出場辞退となったが、投手も野手も豪華なメンバーが揃い、過去最強の呼び声も高い。しかしその一方で一時は侍ジャパンのトップチームに選ばれながらも、ここ数年苦しんでいる選手がいることも確かである。

 投手でまず名前が挙がるのが武田翔太(ソフトバンク)だ。プロ1年目の2012年は高校卒ルーキーながらいきなり8勝をマークすると、2015年からは2年連続で二桁勝利を挙げるなど先発投手陣の柱として活躍。2015年のプレミア12でも2試合に先発していずれも無失点と好投を見せ、2017年のWBCでも大谷翔平(当時日本ハム)が足首の故障によって出場辞退したことにより追加招集され、一次リーグの中国戦では先発も任されている。

 しかしこのWBCでの登板の影響もあって右肩を痛めると、その後も度重なる故障で低迷。一昨年は12試合に先発して4勝5敗、防御率2.68と復活の兆しを見せ、オフにはFA権取得が近いことから4年契約を結んだものの、昨シーズンも右肘を痛めてわずか2勝に終わっている。大型契約を結んでいることからもチームとしてはまだまだ期待が大きいことがうかがえるが、このオフには有原航平、ガンケルが加わり、藤井皓哉も先発に転向することからも、ますます苦しい立場となっていることは間違いない。1学年上でメジャーでの大型契約を勝ち取った千賀とは差が広がる一方だけに、何とか意地を見せたいところだ。

 同じソフトバンクの投手で苦しんでいるのが高橋礼だ。プロ2年目の2019年には先発として12勝をマークして新人王を受賞。翌年はチーム事情からリリーフに配置転換されたが、52試合に登板して4勝、23ホールドと見事な成績を残している。侍ジャパンとしては2019年のプレミア12に出場。先発で2試合、リリーフで1試合とフル回転の活躍を見せ、チームの優勝に大きく貢献した。

 しかし先発再転向を目指した2021年から制球を乱して低迷。持ち味だったスピードの低下にも苦しみ、昨年はプロ入り後最低となる4試合の登板、防御率13.50という成績に終わった。今年は復活に向けてフォームを改造。持ち味であるボールの勢いが戻り、キューバ代表との練習試合でも好投するなど復調の兆しを見せている。過去のWBCでもアンダースローの渡辺俊介(当時ロッテ)、牧田和久(当時西武)が活躍を見せており、今後の侍ジャパンのことを考えても完全復活に期待したい。

 野手で年々厳しい立場になっているのが小林誠司(巨人)だ。プロ入り3年目の2016年からは4年連続でセ・リーグトップの盗塁阻止率をマークするなど活躍。2017年のWBCでは正捕手不在と言われたチームの中でも7試合に出場すると、チームトップとなる打率.450を記録するなど、シーズン中でも見られなかったような打撃を見せて大きな話題となった。

 続く2019年のプレミア12でも正捕手は会沢翼(広島)に譲ったものの、控え捕手として存在感を示している。しかし翌2020年以降は故障と大城卓三の台頭もあって出場試合数が激減。課題の打撃はさらに深刻な不振に陥り、過去3年間の打率は.056、.093、.148と低迷している。昨年は盗塁阻止率も.214とキャリア最低の数字となっており、持ち味である守備面でも苦しんでいる状況だ。今年、成績を上向けることができなければ2番手捕手の座も危うい状況と言えるだろう。

 同じ捕手では小林のところでも名前を挙げた会沢も選手としての分岐点に立っている状況だ。一軍定着までは時間がかかったものの、シーズン二桁ホームランを3度記録するなど強打の捕手へと成長し、チームのセ・リーグ3連覇にも大きく貢献。2019年のプレミア12でも7試合に出場して打率.333と結果を残している。2021年の東京五輪でもメンバーに選ばれていたが、左足を痛めたことで出場辞退。昨年も打率.207と成績を大きく落としている。

 豊富な経験とリーダーシップからチームにとってはまだまだ貴重な存在であることは間違いないが、リーグでも屈指の打力を誇る坂倉将吾が今シーズンから捕手に専念することから、正捕手の座が危うくなっている。今年も状態が上がらないようであれば、このまま控え捕手となる可能性も高そうだ。

 今回取り上げた選手たちはいずれも楽観できる状況ではないものの、チームの中心プレイヤーとして活躍できるだけの力はまだまだ残っているように見える。故障がきっかけで成績を落としているということもあるだけに、まずはシーズン開幕までにしっかりコンディションを整えて、再びローテーション、もしくはレギュラー争いに加わってくることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。