侍ジャパンがWBC準決勝でメキシコに劇的な逆転勝利を飾り、日本列島が「侍フィーバー」にわいている中、プロ野球開幕まで10日を切った。各球団の選手たちはオープン戦で調整し、仕上げの段階に入っている。
その中で心配なのが、巨人・坂本勇人だ。オープン戦の打率は1割を切り、0本塁打、0打点。スポーツ紙記者は表情を曇らせる。
「坂本はオープン戦の成績が例年良くない。開幕までにきっちり合わせる選手なので心配はないかもしれないが、過去のシーズンと違うのは遊撃のレギュラーが確約されていないことです。もちろん、実績を考えれば春先はスタメンで起用される可能性は高いですが、状態が上がらないようだと、ドラフト4位の門脇誠やプロ3年目の中山礼都に取って代わられる可能性がある。実力主義を掲げる原辰徳監督はその部分をきっちり見極めるでしょう」
坂本は度重なる故障の影響で昨年83試合出場にとどまり、打率.286、5本塁打、33打点。レギュラーをつかんだ入団2年目の2008年以来続いていたシーズン連続規定打席到達が14年連続で途切れた。打率は決して悪い数字はないが、気になるのは長打が出なくなっていることだ。ケガの影響によるものなのかは分からないが、右中間、左中間を超えるような打球が少ない。足が速い選手ではないので、長打力がないと怖さがない。上位を打っていたが、今年のオープン戦では6番以下を打つケースが多いのも、全盛期の打撃より落ちているからだろう。
他球団のスコアラーは「春季キャンプを見ると坂本はスイングスピードを上げようと必死なように見えた。確かに長打を打てたことに越したことはないが、もともとホームランバッターではない。試合に出続ければ体のキレが出て自然と長打も出るでしょう。今は結果うんぬんより、打撃フォームのバランスを崩しているように見える。門脇、中山を遊撃で起用して、坂本は指名打者に回ることも少なくないので、なかなかリズムを取り戻せないのかもしれない」と分析する。
20年に31歳10カ月と史上2番目の若さで通算2000安打を達成した坂本は、球史に名を刻む名選手だ。体に負荷のかかる遊撃で10年以上レギュラーを張り、高水準の成績を残している歩みは唯一無二だ。一方で34歳という年齢を考えると、中長期的なチーム作りの観点で後継者を育てなければいけない。その有力候補が門脇だ。堅実な守備と強肩に加え、身長171センチと身長が高いとは言えないがフルスイングで力強い打球を飛ばす姿は、侍ジャパンで4番を張った吉田正尚(レッドソックス)と重なる。体が強いのも持ち味で、首脳陣の評価が高い。原監督は「ストロング門脇」と命名している。
また、攻守で野球センスが光る中山も遊撃のレギュラーを虎視眈々と狙っている。昨年は坂本が故障で離脱した際に遊撃のスタメンに入る機会が多く、50試合出場で打率.198、0本塁打、3打点。非力な打撃が課題だったが、今年のオープン戦では打率3割超えと好成績で強烈にアピールしている。
スポーツ紙デスクは「坂本がこのまま状態が上がらないようだと、開幕スタメンを剥奪される可能性もゼロとは言えない。シーズンは長いですし、本来の状態を取り戻すまで門脇や中山を遊撃で起用する可能性が考えられる」と指摘する。
3年ぶりのV奪回に、不可欠な選手であることは間違いない。坂本は「不動の遊撃」として今年も君臨できるか(今川秀悟)