J2で、快進撃を繰り広げているのがFC町田ゼルビアだ。監督としてタクトを振るうのは、昨年まで青森山田高で監督を務めていた黒田剛監督。19日のアウェー・モンテディオ山形戦で3−0と快勝し、4連勝で首位をキープした。
スポーツ紙記者は、町田の強さについてこう分析する。
「2019年に横浜F・マリノスでJ1制覇に貢献したFWエリキ、カタールW杯でゴールを決めた豪州代表のFWミッチェル・デュークの2トップがフォーカスされますが、ベースは強固な守備だと思います。黒田監督が青森山田から志向するサッカーのベースは手堅いディフェンスとフィジカルの強さ。J1サガン鳥栖で監督を務めた金明輝ヘッドコーチと共に、戦術を落とし込んで安定した戦いを続けている。相手によって対応を変えることができるので、柔軟性がある。まだシーズンは始まったばかりですが、J1昇格の有力候補だと思います」
黒田監督はプロサッカー選手の経験はなく、1995年に青森山田の監督に就任。元日本代表のMF柴崎岳(スペイン2部・レガネス)、将来の日本代表の中心選手として期待がかかる松木玖生(FC東京)を輩出し、7度の全国優勝を果たすなど高校サッカー界の名将として知られた。青森山田のサッカーは堅守速攻で知られ、フィジカルトレーニングに力を入れていることから選手たちが強靭な肉体で球際に強いのが特色とされていた。
町田は昨季14勝19敗9分で15位と低迷。18年にクラブ経営に参画したサイバーエージェントは昨年10月にサイバーエージェント、AbemaTV社長でクラブのオーナーでもある藤田晋氏が、代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任することを発表した。J1昇格へ本腰を入れる中、新監督として白羽の矢を立てたのが、高校サッカー界の名将・黒田監督だった。
異例の転身に期待の声だけでなく、「プロの指導者として通用するのか」という声も聞こえた。黒田監督もその空気を察知していたのだろう。クラブの公式ホームページを通じて、「私はこれまでプロの指導者としての経験がなく、私の就任について不安を感じられることもあるかもしれません。ただ、長きに渡り培ってきた『勝者のメンタリティ』はどのカテゴリーであっても、失われるものではないと信じております。これからは、FC町田ゼルビアの勝利のために全力を尽くす所存です」と誓っていた。
メンバーの半分以上が入れ替わる大型補強で、エリキやデュークだけでなく、「黒田サッカー」にマッチする選手を適材適所で補強した。元J2秋田ブラウブリッツのDF池田樹雷人、元J2ジェフ千葉のDFチャン・ミンギュ、元J2栃木SCのDFカルロス・グティエレスのセンターバック3人はフィジカルが強く、対人守備に定評がある。黒田監督の指導の下、チーム全体で守備意識が高く、セカンドボールへの反応が速い。特別な戦術を導入しているわけではなく、地に足がついたサッカーを展開していることで簡単に崩れない強さを感じる。
スポーツ紙デスクは、「大型補強をしているから結果に結びつくわけではない。J2に降格した清水エスパルスが象徴的です。日本代表でカタールW杯に出場したGK権田修一、昨季J1得点王のFWチアゴ・サンタナ、元日本代表のMF乾貴士、FW北川航也らタレントを擁しているが、開幕から5試合連続引き分けと苦戦している。町田は相手の警戒がこれから強くなる。黒田監督の手腕が問われるのはこれからです」と指摘する。
J2に新風を吹き込む町田。黒田監督が新たな挑戦で、悲願のJ1初昇格を目指す。(今川秀悟)