J1と同時に開幕した2023年のJ2リーグ。今季も全22チームによるタフな戦いが予想されるが、例年と異なる点は3チームがJ1へ昇格できることにある(1位と2位が自動昇格、3位〜6位はプレーオフを行い優勝チームが昇格)。J1昇格のチャンスが広がっている中、かつてはJ1の常連でありながらも、すっかりJ2に定着しているクラブは、今度こそ「J2の沼」から抜け出すことができるのだろうか。

 J1経験クラブで、最も長く「沼」にハマり続けているのが、東京Vである。読売クラブを前身にJ発足直後はV川崎として黄金時代を謳歌したが、次第にチーム力が低下し、2005年に初のJ2降格。2008年にJ1復帰も1年で即降格となり、2009年以降はJ2暮らしが続いて今季で15年目。2017年、18年と2年連続でJ1昇格へのプレーオフに進んだことはあったが、昨季9位とJ2の中位が定位置となっている。だが今季、オフに佐藤凌我、ンドカ・ボニフェイス、馬場晴也、井出遥也の主力勢が“個人昇格”の形で移籍して戦力低下が心配されている中でも、開幕5試合を3勝1分1敗と戦前の予想を上回る好スタート。昨年6月に就任した城福浩監督の下、6連勝締めした昨季終盤のサッカーとチームの雰囲気を新シーズンにもうまく持ち込んでいる。

 特徴は強固な守備。DFラインのビルドアップには課題を残すが、チーム全体の守備意識が高く、開幕5試合で1失点のみ。そして、アカデミー育ちの天才MF森田晃樹と横浜FCから完全移籍で加わった齋藤功佑の2人が、4−3−3システムのインサイドハーフの位置で高い技術を発揮。前線では、右ウイングのバスケス・バイロンが独特のリズムのドリブルで積極果敢に仕掛け、梶川諒太も存在感大。新加入のドイツ人FWマリオ・エンゲルスがまだフィットしていないが、第4節の藤枝戦では32歳の阪野豊史が機能して5対0の大勝を収めた。まだ始まったばかりだが、「期待してもいい」シーズンになりそうな気配を漂わせている。

 同じくJ発足「オリジナル10」の一員である千葉もJ2暮らしが長く、今季で14年連続となる。なんといってもオシム監督時代の「人もボールも動くサッカー」が思い出されるが、2009年にJ1最下位となってクラブ初のJ2降格となって以降、J1参入プレーオフに計4度(2012〜14年、17年)進んだが、1度もJ1復帰を果たせず。2020年からユン・ジョンファン監督の下で「再生」を図ったが、14位、8位、10位と結果が出ず、昨季までヘッドコーチを務めていた小林慶行氏を新監督に据えて新シーズンに臨んでいる。

 戦力を見ると、田口泰士、見木友哉、新井一耀と軸となる選手を含めて主力の多くが残留。櫻川ソロモンをレンタルで放出した代わりにJ1でも実績のある呉屋大翔を獲得し、得点力不足解消への解決策を提示した。しかし、開幕戦で長崎相手に1対0の白星スタートを切ったのも束の間、第2節から山形(●1−3)、群馬(△2−2)、秋田(●0−1)、大分(●1−2)と攻守に精彩を欠いた苦しい戦いが続き、5試合を終えた時点で22チーム中19位(1勝1分3敗)。自分たちが主体となったアグレッシブなスタイルを標榜しているが、まだまだ時間がかかりそうだ。J1復帰を果たすためには、長いシーズンの中で「内容が悪くても勝つ」ことが必要であり、序盤戦でどれだけ我慢しながら勝ち点を拾っていけるか。最低でも4月中には建て直したい。

 その千葉よりも近年、J2でも下位に低迷しているのが、大宮だ。1999年のJ2誕生初年度にJリーグに参入し、2005年からJ1で10年間、しぶとい戦いぶりで「残留力」を発揮し続けた。1度目のJ2降格の際は1年で即J1復帰を果たしたが、2度目に降格した2018年以降はJ2暮らしが続いて今季が6年目。気がかりなのが右肩下がりの順位で、2019年の3位から2020年15位、2021年16位、2022年19位と年々成績が下降している。昨季は一時J2最下位に沈むなど、クラブ史上最低といえるシーズンとなった。

 状況を変えたい今季も戦前の期待値は高くなかった。昨季途中から指揮を執った相馬直樹監督の就任後の成績(6勝8分10敗)や明確な戦力アップを示せなかったオフの補強が理由で、その不安通りに開幕戦は山口相手に0対1の黒星スタート。だが、その後は金沢(○2−0)、熊本(●0−3)、磐田(○1−0)、栃木(●1−2)と安定感を欠きながらもホームではしっかりと勝利し、開幕5試合を2勝3敗で乗り切った。目立つのは、柏から加わったFWアンジェロッティ。24歳、左利きのブラジル人ストライカーは、2トップの一角として前線で起点になりながらピッチを幅広く動き回り、磐田戦で決勝のヘッド弾を決めると、続く栃木戦では左足ボレー弾。身長185センチと大柄ながら柔らかいボールタッチを披露し、チャンスメークからフィニッシュまで、あらゆる場面で“違い”を見せつつある。この男を新エースに据えて“勝てる形”が固まれば、連勝が可能となり、昇格争いにも加われるはずだ。

 その他の主な「元J1クラブ」を見ると、2年ぶりのJ1復帰を目指す大分が開幕5試合を4勝1分0敗の好発進を決め、同じく今季こそJ1復帰を果たしたい仙台、さらに昨年の天皇杯で優勝した甲府が、ともに2勝2分1敗とまずまずのスタートを切った。その一方で今季、2016年以来となるJ2の戦いに挑む「本命」清水は5試合連続ドロー発進となり、同じくJ1からの降格組の磐田も1勝2分2敗と開幕から苦しんでいる。そして彼らを横目に首位に立ったのは、青森山田高校の総監督から異例のJクラブ指揮官となった黒田剛監督率いるJ1未経験の町田(4勝1分0敗、得失点差で大分を上回る)。さらに3位には、J3からJ2に昇格して3年目となる秋田(3勝2分0敗)がつけている。

 まだ序盤戦で、今後しばらくは毎節のように順位が大きく変わることになるだろうが、不変なのはJ2での戦いが「簡単ではない」こと。そして、「沼にハマるとなかなか抜け出せない」ということ。実力が拮抗する中で相手の良さを消しにくるチームが多く、日程も過密で移動にも時間を要する。なにより、活躍した選手がJ1クラブに引き抜かれることでチーム力の積み上げが難しく、J2に長く停滞すればするほどチーム力が徐々に低下していく傾向にある点が「沼にハマる」大きな理由だろう。そこから抜け出すには相当な力がいる。まずは序盤戦で勢いを掴み、チームが目標に向けて一丸になること。混戦必至の中で、J1で実績のあるクラブには自分たちのプライドを取り戻す戦いをサポーターに見せてもらいたい。(文・三和直樹)