フェイクニュースを加速した背景にあるのが人々の政治的な分断だ。その背景にはネットなどのテクノロジーがあるが、一方で人々の分断の解消を目指したテクノロジー利用も進みつつある。

 ネット上のデマや中傷、陰謀論など、事実に基づいていなかったり虚実が入り交じったりした「フェイクニュース」が世界中に氾濫している。昨年の米大統領選挙の結果に影響を与えたとして問題の深刻さが認識され、対策が急務となる中、国内外でテクノロジーを活用した取り組みが広がりつつある。

 フェイクニュースが伝播する場になっている検索サイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運営する海外のIT企業は、ネット上にあふれるフェイクニュースに対して事実検証を行う「ファクトチェック」などの対応の取り組みを始めた。

 例えば、Googleは今年4月にすべての国のグーグルニュースと検索サービスを対象に、アルゴリズムによるファクトチェックの仕組みを導入した。Facebookも外部機関と協力してファクトチェックによる警告表示を3月から開始。欧米ではもともとマスメディアなどが発信するニュースのファクトチェックを行う組織が複数あり、海外IT企業によるこれらの取り組みにはそうした組織が協力している。

●テクノロジー活用しファクトチェックを支援

 国内でも6月下旬にIT企業幹部、大学研究者、非営利組織代表らが発起人となり、ファクトチェックを支援する「ファクトチェック・イニシアティブ」が発足した。

 まずは自然言語処理や機械学習を用いて、SNSで発信される「このニュースは誤りではないか」といった「噂」をもとにしてファクトチェックをする対象のニュースを見つける、ファクトチェック支援システムを開発する。発起人のひとりでスマートニュース執行役員の藤村厚夫氏はこう話す。

「ネット上の爆発的な情報量から生み出される偽情報に対して、人だけで対策をするのは限界がある。そこで機械学習や自然言語処理といった支援体制が重要となります」

 同じく発起人である、誤報検証サイト「GoHOO」を運営する日本報道検証機構代表理事の楊井人文氏と自然言語処理などが専門の東北大学大学院の乾健太郎教授らと協力して、こうしたテクノロジーによるファクトチェックの対象を検出する支援システムを開発するという。

 フェイクニュースそのものはネット以前の新聞やテレビといった旧来メディアでもはびこっていた。だが、現在のフェイクニュースの発生と拡大の背景として見逃せないのがネットとSNSの影響力だ。

 今年3月、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を考案し「インターネットの父」と呼ばれるイギリスの計算機科学者ティム・バーナーズ=リー氏は講演でこう訴えた。

「ネットでは広告収入のためにフェイクニュースが広まりやすい。経済的な動機や、ネガティブな噂のほうが拡散しやすいといった人間の性質を見て(ネットのサービスなどの)システムを設計しなければいけないでしょう」

●SNSで情報タコツボ化 少数派意見も増幅

 世界のインターネット利用者数は人口の過半数の約38億人と、情報を媒介するメディアとしての存在は増す一方だ。中でも今やニュースの多くはSNSを経由して拡散される。世界最大のSNSであるFacebookの月間利用者数は20億人を超えた。

「もともと分散型だったネットだが、SNSでは情報は中央集約化されやすく、情報のタコツボ化が起こりやすくなった」とリー氏は警鐘を鳴らす。

 どういうことなのだろうか。ネット分析を手がける東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫准教授は、こう分析する。
「人はもともと自分の意見に近い、自分にとって都合のいい情報を信じる傾向がある。SNSではそうした情報だけを選択的に取り入れやすくなります」

 これが行き過ぎると、自分の意見とは異なる情報を遮断し反論が目に入らなくなり、ますます自分の意見に固執し先鋭化していく。

 SNSでは情報が事実かどうかにかかわらず、共感を得さえすれば拡散される。こうして意見が近い人たちの間で自分たちにとって都合がいい情報だけが強化されていく「確証バイアス」が起こり、少数派意見であっても増幅され、あたかも多数派意見を形成しているように見えていく。

 さらに、こうしてネットで増幅された意見がテレビなどのマスメディアに取り上げられ発信されることで、既成事実化して社会を大きく動かしていく。こうした例に、2015年に起きた東京五輪のエンブレム問題がある。デザイナーの佐野研二郎氏が手がけたエンブレムデザインが盗作ではないかとの疑惑から社会的な批判が集まり、大会組織委員会は最終的にこのデザインを撤回した。この問題のきっかけとなったのが、佐野氏を批判する大量のツイートが投稿されたことだった。

 ところが、鳥海准教授とビッグデータ分析のホットリンクの榊剛史氏がこれらのツイートを詳しく分析したところ、批判的なツイートの多くは保守系やネット右翼など一部の右派コミュニティー内で発信・リツイートされ、影響力を持ったことがわかった。このことから、実際には批判的な意見は社会一般ではなくSNSの一部のコミュニティーで強まっていたが、それをマスメディアが取り上げたことであたかも社会全体の意見のようになったことが見て取れる。

●政治的分断が広がりフェイクニュースが拡大

 こうした、一部の極端な意見を持った人たちが声高に主張し、近い意見を持った人たちによってSNSで拡散され、それをマスメディアが取り上げさらに多くの人たちに拡散するという仕組みは、フェイクニュースでも同様だ。

「トランプ支持層の拡大にはSNSが影響したと言われていますが、実際は地方の人たちは都市部ほどスマートフォンを使わず、SNSをそんなに見ているわけではない。熱狂的なトランプ支持層がSNSで情報を拡散すると、それをテレビなどのマスメディアが取り上げてさらに拡散する。地方の人たちは、主にこうして取り上げられたテレビのニュースから情報を得ているのです」

 スマートニュース代表取締役会長共同CEOの鈴木健氏はこう言う。

 鈴木氏は、昨年の米大統領選挙前から全米で保守とリベラルの両陣営を視察して、フェイクニュースの背景を探ってきた。

「フェイクニュースの背景はとても複雑です。ファクトチェックは重要だが、それだけで対応できるものではない。フェイクニュースが生まれ拡散される背景のひとつに、政治的な分断の深まりがある。こうした分断の解消に向けた対策が必要でしょう」

 実際、アメリカではここ数年で政治的分断が深まっている。米国の調査団体であるピュー・リサーチ・センターが20年以上にわたり毎年調査をしているアメリカ人の支持政党調査結果からは、ここ10年で共和党支持層と民主党支持層では、政治イシューに対する意見の分断が徐々に進んでいっていることがわかっている。

 そもそも何をフェイクニュースとするかの判断は難しい。ある人にとっての「事実」は意見が対立する他の人にとっての「偽」になりうるからだ。人々の政治的な分断が深まることで、こうした意見の対立が増え、フェイクニュースの発生と拡散につながっているのが現状だ。

 昨年夏、スマートニュースは同社のニュースアプリの北米版に、保守の人にもリベラルの人にも双方のニュースを配信するといった、政治的にバランスよくニュースを配信するアルゴリズムを導入した。アメリカでの政治的分断を肌身に感じていた、現地の中国人エンジニアからの提案に基づいて実装した。

 一般にニュースアプリや検索、SNSでは多くが利用者の好みに最適化するアルゴリズムに基づいて、ニュースや検索結果などが表示される。こうしたアルゴリズムが情報のタコツボ化を促し人々の分断を加速したという指摘もある。

●興味や関心を広げるアルゴリズム

 スマートニュースのアルゴリズム変更は、こうした指摘への対応のひとつとも言える。実際、配信されるニュースの政治的バランスはよくなったという。

 だが、前出の鳥海准教授が指摘するように、もともと人は自分と異なる意見を信じにくい。そのため、政治的な分断などの意見の相違が強いほど、自分と異なる意見を知ったとしても共感にはつながりにくい。

 では、フェイクニュースの原動力ともなっている人々の分断の解消に、テクノロジーはどのように対応していけるのだろうか。

「自分と異なる意見を持つ人たちの共感を得るために、例えば、バーチャルリアリティー(VR)で他人の人生を体験したり、自分と異なる生活を体験したりするという試みが有効かもしれません」

 と、鈴木氏は言う。実際、VRを活用して人種差別などをなくそうという活動はすでにある。VRを研究する東京大学大学院情報理工学系研究科の鳴海拓志講師は説明する。

「VRでは、あたかも他者になったかのような体験ができます。アメリカの非営利団体が、人種差別の対策として、VRを使って白人に黒人の体験をしてもらうという取り組みを行っている。VRで自分の見た目が変わる体験をすることで、自身のものの考え方や行動が変わるといった研究結果もあります」

 さらに、鳴海講師がNTTと共同で行った研究からは、テレビ会議で表示される他者の見た目を変えることで、異なる意見を持った人たちの間で、お互いに納得のいく話し合いができるようになることがわかっている。研究では、自身のアバターを使ったテレビ会議で意見が2人対1人に分かれた場合、少数派の意見を持つ1人をテレビ会議の画面上で2人分のアバターとして表示して話し合うようにしたところ、その議論結果に対してより納得できるようになったという。

「VRで自身が『変身』や『分身』したかのような状態を作り出すことで、同調圧力を抑えたり、感情を制御したりして、異なる意見の人とも冷静な議論ができるようになるのではないでしょうか」(鳴海講師)

 一方、スマートニュースでは、利用者の興味や関心を広げる仕組みを同社のニュースアプリに入れようと検討を進めている。

「その人がもともと興味を持っている分野から広がりを作れるはずです。例えば『将棋』が趣味の人であれば、最近のニュースから『人工知能』にも興味を持つだろう。そうした新しい視点を作ったり、また『人工知能の歴史』といったようにさらに深掘りしたりして興味を広げていく支援ができるようになればいいと考えています」(鈴木氏)

 こうした、個人の興味や関心を広げることが、自分と異なる意見を受け入れる素地となり、意見の異なる人たち同士の分断の解消につながればと考えているという。

 情報のタコツボ化という、人々が自分とは異なる意見を遮断し、お互いの分断を加速する環境を作ったのがネットのテクノロジーなら、またそれを解消するのもテクノロジーなのかもしれない。(編集部・長倉克枝)

※AERA 2017年7月17日号