ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。津田氏はネットの「世論」は作られたものだと警告する。

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 英オックスフォード大学のインターネット研究所のチームが6月、ある調査結果を明らかにした。世論操作を目的にフェイクニュースを作成し、特定の人物を攻撃するプログラム──「ボット」の存在が、世界各国の政治に影響を与えているというのだ。

 ここ2年ほど米国、ドイツ、カナダ、ロシア、ウクライナ、中国、台湾、ブラジル、ポーランドについて、選挙や国家安全保障といった話題を巡りソーシャルメディア上でどのような議論が行われているのか、数千万件の投稿を分析した。その結果、ロシアを中心に世論操作を目的としたフェイクニュースや政治的プロパガンダが自動プログラムによって作られ、世論形成に影響を与えていることが明らかになった。

 研究チームのフィリップ・ハワード氏によると、ロシアのサンクトペテルブルクには世論操作を専門に行う施設があり、そこでは数百万ドルの予算が投じられ、数百人の工作員が日夜様々な国を対象とした世論操作を行っているという。先日あったフランス大統領選でも、この部隊が暗躍していたのだろう。

 政治的な目的を達成するため、「敵」とみなした人物や団体を虚偽あるいはゆがめた情報で中傷するというのは、ネットの普及以前から見られた現象だ。政敵をおとしめるうわさ話を流すことや、選挙の時期になるとポストに入る怪文書などはその典型だろう。ネットを利用して世論工作を行うというのは、「古くて新しい問題」なのだ。

 では、うわさ話や怪文書と、ネット上の世論工作は何が違うのか。うわさ話と異なるのは自分の身元を明かさなくて済むことだ。

 様々なツールを使えば、匿名で情報発信が簡単に行える。ロシアや中国にはネットの世論工作を専門的に行う企業が存在し、自分の手を汚さずにうその話題を広めることが可能だ。ロシアのように国ぐるみでネットの世論工作に関与しているところもあれば、民間業者を使う企業や政治家もいる。

 怪文書との一番の違いは、届けられる人数に物理的な制約がないということだ。怪文書は作るにも、配布するにもコストがかかる。ところがソーシャルメディアの場合は、扇情的な情報を流して、工作を行って多くの人の目に触れるようにするだけで、あとはユーザーが勝手にシェアをして広めてくれる。怪文書を受け取った人がコピーして勝手に周りの人に配ってくれるようなものだ。実に効率が良い。

 何より恐ろしいのは、こうした世論工作を行うための情報が、既に人の手ではなくAIによって自動生成され、広められているという事実だ。

 我々がネットで見ている「世論」は、もはや「世論の顔をしたプロパガンダ」である可能性が高い。こんな時代に「紙の報道」は一体何ができるのか、改めて考え直さなければならない。

※週刊朝日  2017年8月4日号