ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国フェイスブックが導入を予定する新しい施策「インスタ記事」について解説する。

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 先月ニューヨークの業界カンファレンスで発表されたフェイスブックの新しい施策が、話題になっている。多くの新聞社や出版社、オンラインマガジンに対して、フェイスブック上で有料購読してもらう仕組みの提供予定を認めたのだ。

 フェイスブックはメディア業界向けに、リンク先に飛ばなくても記事の内容をサービス内で表示させる機能を、2015年5月から提供していた。読者のストレスを軽減し、閲覧数を上げることで媒体価値を上げる「インスタント記事(Instant Articles)」というものだ。

 今回はこの機能を拡張し、毎月定額料金を払うことで、フェイスブック上で特定の媒体の記事を読めるようにする。課金する前に毎月少なくとも10本の記事は、無料で読めるようになるという。現在多くの新聞社がデジタル版で導入している「メーター制」(毎月決められた記事の本数までは無料で、それ以降は有料という仕組み)に近いものになるようだ。

 新聞社や出版社が現在苦境に陥っている理由の一つに、デジタル世代の若者はニュースをわざわざパブリッシャーのページに行って読まないという傾向が挙げられる。フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアで、誰かがリンクした記事を個別に読む。もしくは、スマートニュースやグノシー、ヤフーニュース、グーグルニュースなど、様々なニュースをまとめているサービス経由で読むのが当たり前になっている。

 プラットフォーム事業者が「規模の経済」で優位に立っているなか、新聞社や出版社が頑張って自社媒体による情報発信や課金にこだわっても、肝心の読者がついてきてくれる可能性は低い。世界最大の情報プラットフォームであるフェイスブック上にメディア向けの有料購読機能が追加されることは、大きな意味があるだろう。

 日本ではフェイスブック以上にメディアに対して影響力の大きいヤフーという存在があるため、このサービスが日本で展開されるかどうかは不透明だが、導入されれば利用したいと思うパブリッシャーは多いはずだ。ヤフー一極集中の状況を改善する意味でも、積極的な日本展開を期待したい。

 フェイスブックは、ハッカーやプロパガンダ攻撃から、政党や選挙システム、情報産業を守るための新たな研究を行う組織も支援している。設立資金として50万ドル(約5500万円)を提供することを、7月26日に発表した。

 フェイスブックは今年に入ってから、ネットに流れる情報を適正化させるための取り組みに本腰を入れている。メディア向けの有料購読機能や研究組織の支援は、そうした流れに沿ったものだ。

 プラットフォーム事業者が自ら引き起こした「情報汚染」という現象にどれだけ立ち向かえるのか、今後の取り組みと本気度に注目したい。

※週刊朝日  2017年8月11日号