さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第39回はカンボジアのプノンペン国際空港から。



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 どうしてこんなに汚れるのだろう……。アジアにはそう考え込んでしまう国がある。僕がしばしば訪ねる国では、カンボジアとバングラデシュがそうだ。森のなかに入ったり、辺境を歩いたりしたわけではないのに、体や衣類が汚れる。
 夕方になり、ふと見ると爪先が黒い。土が入ったのだろうか……と首を傾げる。靴には泥や砂ぼこりがしっかりとついている。ズボンについた筋のような汚れが目立つ。水を浴びたときに、フックにかけたズボンが落ちたのを思い出した。床に残った泥がついたのだろう。

 カンボジアやバングラデシュでは、地方都市や村に滞在することが多い。おそらく舗装率の問題かと思う。地方では宿の周りは土だ。その上を歩く。寺では靴を脱ぎ裸足になる。道はとりあえず舗装されているが、周囲は土や砂の世界だから、それが路上を覆ってしまう。

 乗り物にはエアコンがない。トゥクトゥクとかCNGと呼ばれる三輪タクシーが主流だ。あとはバイクになる。風をもろに受けることになる。気候は暑いから、風は快適だが、体は汚れる。きっと体も汗臭いのに違いない。

 カンボジアのプノンペン国際空港。この空港にエアコン付きのタクシーで乗りつけた記憶がない。いつもバイクかトゥクトゥクだ。体についた砂ぼこりをぱたぱたとはたいて落とし、ターミナルビルに入る。

 エアコンの冷気に包まれ、急に体が軽くなったような気になる。ロビーに椅子は少ない。チェックインがはじまるまで、フロアーをぶらぶら歩く。振り返ると、歩いた跡に小さな土の塊が残っている。靴に着いていた泥が乾いて落ちたのだ。周囲にいる人たちが妙に清潔に映り、ズボンにこびりついた泥はねを指先でつまんでとってみたりする。

 なぜ、僕はこんなに汚れているのだろう。チェックインの列に並びながら、考えてみたりする。

 カンボジアの人たちにとって、、飛行機に乗ることはまだ特別なことだ。だから普段着では空港にはやってこない。アイロンがかけられた衣類をきちんと着ている。外国人の多くは仕事でやってきた人たちだ。高級ホテルに泊まり、エアコンの効いた車で空港までやってくる。ぬかるんだ道など歩かず、大きな瓶に貯められた雨水で水浴びなどしないのだ。

 村からトゥクトゥクやバイクに乗って、直接、空港までやってくる僕は少数派なのだろう。空港ですっかり浮いてしまう。

 空港という空間に村からやってきてしまった旅人……。

 搭乗待合室に座っていると、足や腕が痒くなってくる。衣類をめくってみると、虫刺されの跡。体が冷えてくると、痒みは増すらしい。

 プノンペン国際空港──。いつも汚れが気になり、乗客を避けるように、待合室の隅に座っている。