さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第64回は中国のバスターミナルから。



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 中国の新疆ウイグル自治区の西端、カシュガルからその東にある青海省に抜けた。タクラマカン砂漠の南縁を通る道で、シルクロードの名称でいえば西域南道である。かつてはマルコポーロも通ったといわれる道だが、乾燥化が進み、シルクロードの本流は天山山脈の南北を通る天山北路と天山南路に移っていった。

 カシュガルの東約500キロのホータンまでは鉄道が通じている。その先はバスが足になる。ホータンからバスに12時間揺られてチャルチャン。そこに泊まり、翌朝のバスに7時間乗ってルオチャン……。新疆ウイグル自治区内の街を東へ、東へと向かっていく旅。ルオチャンからさらに1日バスに乗ると、青海省に入る。

 検問が厳しい旅だった。ホータンからチャルチャンまでのバスは、途中で7回の検問があった。バスを降りてチェックを受けるのは、ウイグル人と僕ら外国人。漢民族はノーチェックだった。公安はテロを起こす可能性があるウイグル人過激派を最も警戒していた。

 バスターミナルも独特のシステムが敷かれていた。バスターミナルというと、切符売り場やバス乗り場に自由に出入りできるのだが、このエリアは厳重なチェックが待っていた。

 それをはじめて体験したのは、チャルチャンのバスターミナルだった。深夜に着いたのだが、全員、身分証明書かパスポートを公安に提出するようにいわれた。そこでチェックし、登録。返却は別の窓口だった。ひとり、ひとり、名前を呼ばれて取りにいかなくてはならなかった。

 このシステムはルオチャンのバスターミナルも同じだった。そしてバスが途中で停車する街のすべてのバスターミナルで徹底されていた。

 バスがターミナルに入ると、すぐにゲートが閉まる。ターミナルの外に出ることができるのは、その街で降りる客だけだった。当然、身分証明のチェックは厳しいが。

 乗り続ける乗客はバスから降りることはできても、ターミナルから出ることができない。ちょうど昼どきに停車した街があった。ターミナル内には簡単な売店しかない。乗り続ける客がターミナルの外に並ぶ食堂に行くことを職員は許可しかなった。

 この沿線のバス旅は不自由を強いられてしまう。公安の方針だから、誰も文句はいえなかった。

 このルールを決めたのは漢民族の公安だが、実際に荷物やボディーチェックをするのは、雇われたウイグル人だった。彼らのチェックは杜撰で、エックス線チェックのモニターの前でうたた寝していたりする。それでも乗客は荷物を機械に通す。

 なにかが空まわりするバスターミナルをバスは結んでいく。