このところNHK大河ドラマは御難続きである。来春スタートの明智光秀物語(タイトルは「麒麟がくる」)は、放送直前の準主役交代!? という前代未聞のトラブルに見舞われたが、そろそろ最終回を迎えようとする「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」」も、度重なる演者の出演自粛と視聴率低迷が話題にはなったものの、世間からの寄せられるドラマそのものへの注目度は今ひとつと言えるかもしれない。



 この「いだてん」、本来は仏さまの名前である。現在では「韋駄天」と表記するが、多くの場合「いだてん走り」から来る「足の速い人」を指す言葉と認識している人がほとんどなのではないだろうか。

●須弥山を守る仏の一仏

 以前、この場で仏さまの分類について紹介をしたが、韋駄天はこの4つに分けられた「如来」「菩薩」「明王」「天」の「天」部に分類される仏である。

 もっと詳しく言えば、帝釈天に仕える四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)のうちの増長天の部下にあたる。

 帝釈天は須弥山(しゅみせん/仏教における聖なる山)の山頂に住み、その東西南北を四天王が守護し、それぞれの四天王を八将が支えるという図式となる。京都の東寺など古いお寺には、この須弥山の様子を表すように仏像が配置されたお堂も残されている。

●仏舎利を鬼から取り戻した

 このような韋駄天が、なぜ俊足の代名詞のようになったかと言えば、以下のような逸話からではないかと考えられている。

 お釈迦さま(仏教の開祖・ブッダ)が亡くなった時、捷疾鬼(しょうしつき)がお釈迦さまの遺骨(仏舎利/ぶっしゃり)を奪い逃げた。韋駄天は即座に追いかけ、須弥山の頂上で無事遺骨を取り戻すのだが、高さ132万キロメートルと言われる須弥山を一瞬で駆け上ったことで、「韋駄天=足が速い」として有名になったと。この話から、修行を妨げるものがあれば走ってきて取り除いてくれるという意味にも取られ、修行場には守護神としてまつられている仏さまとなっている。

 蛇足だが、捷疾鬼とは有名なほうの名前で言えば「夜叉」で、四天王の一仏である多聞天(別名・毘沙門天)の部下である。こちらも光のように足が速く、素早い鬼とされている。ちなみに、多聞天は北方を、増長天は南方を守護する神である。

●シャカの饗応担当の神

 また、「ご馳走(ちそう)」という言葉は、韋駄天がシャカのための食料を走り回って集めていたことから生まれた。誰かのために駆けずり回って用意する食事という意味である。この話から、食に不自由させられることがない神さまとして台所・厨房(お寺では庫裏/くり)などにもまつられている。

 以上のような話から、韋駄天は柔和なイメージがあるが、もともとはヒンズー教の神、軍神・スカンダが元になっている。このため韋駄天の様相は、兜や鎧をつけ宝剣などを持つ姿である。たしかに足が速いだけでは、鬼から仏舎利を取り戻せはしなかっただろう。

●韋駄天がまつられるお寺は

 このような仏のため、韋駄天が本尊としてまつられているお寺はない。大きなお寺には別にまつられるお堂があったり、四天王とともにまつられていたりはするがそれもかなり少ない。名の知れた仏さまとしては珍しい存在なのである。それでも、京都の萬福寺や泉涌寺などには文化財級の韋駄天像が鎮座している。

 東京にも、2月の東京マラソン時には参拝者が急増する「大観音寺(おおかんのんじ)」というお寺が人形町にある。本尊は鎌倉の井戸から引き上げられた観音さまの頭(鉄造菩薩頭)だが、境内に韋駄天のお堂がある。

 また、世田谷観音には、京都・二条城から移築された阿弥陀堂があり、ここには阿弥陀如来の脇に左甚五郎作と伝わる韋駄天像が鎮座している。

 今では東京の韋駄天は、スポーツの神さまとして、また子どもの病気を素早くとり除く神としてすでに多くの人に知られる存在となった。他にも、足腰健康、盗難よけのご利益祈願も多い。

 韋駄天は、スカンダの音を漢字に訳す際、塞建陀天(あるいは私建陀天)、やがて建駄天と略されるようになったのだが、法典を写す際の誤写により「建」が「違」へと変化、のちに道教の影響も受け「違」は「韋」と表されるようになった。まったく原型をとどめない仏さまである。一瞬で目の前を通り過ぎる高速の守護神のご利益も、時代とともに各種拡散中である。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)