「信号場」をご存知だろうか。ちょっと不思議な名前を持つこの鉄道施設は、駅などと同じ停車場の一形態で、全国で170カ所以上を数える比較的メジャーな存在だ。具体的にどのような存在なのか、その実態に迫ってみよう。



*  *  *
■駅でない停車場・信号場とは?

 列車に乗っていると、駅でもないところで停車することがある。「はて、ダイヤの乱れでも起きたのかな?」と訝っていると、落ち着いた声で「列車行違いのため2分ほどお待ちください」などという車内放送が流れてくる。列車が信号場に停まったのである。

 信号場をごく簡単に言い表わすと、「乗客の乗り降りができない停車場」ということになる。おもに列車の行違いや追越しなどのために設けられているため、停車理由のないときは当然のように通過してしまう。停車場の一種である駅に同様の役割を持つケースが多いが、信号場は駅とは異なり「時刻表」の本文や路線図には掲載されていない。したがって、相応の知識や乗車経験がなければその存在を意識しない人のほうが多いのではないだろうか。近年では「Gooleマップ」などWEB上の地図に表示されているケースもあるので、存在をキャッチするのは、以前と比べれば格段に容易になった。お出かけ前などにチェックしてみてはいかがだろうか。

■信号場にはどんな種類がある?

 信号場は大きく分けてつぎの5タイプを挙げることができる。

・A:単線区間の行違いのため
・B:複線区間の追越しなどのため
・C:分岐点
・D:単線と複線(複線と複々線なども)区間の境界
・E:その他
 
 一部に複数の役割を兼ねるケースも見られるなか、もっともポピュラーなのが「A:単線区間の行違い」で、全体の6割を占める。単線区間では駅で列車の行違いをさせるのが一般的だが、駅間距離が長い区間などで途中に信号場を設けて運行の効率化をはかる場合がある。沿線人口の少なさや地形などの事情から駅を設けづらい路線や地域に多く、たとえばJR北海道では現存39カ所中33カ所がこのタイプ。また、駅廃止後にこの目的で信号場として残されるケースも多い(後述)。

 特筆できるのは石勝線(南千歳〜新得)で、132.4キロメートル中17カ所ある信号場のすべてが該当する(うち4カ所は根室本線との重複区間)。同線は両端駅を合わせてわずか8駅、平均すると16.5キロの駅間距離があるなか、新夕張と占冠との間34.3キロ中に4カ所、トマムと新得との間33.8キロ中に5カ所の信号場が設けられているなど、典型的な信号場銀座路線となっている。

 石勝線と接続する根室本線(滝川〜根室)も同様の傾向があり、13カ所の信号場すべてがこのタイプになっている。ここで注目したいのは、うち12カ所が落合〜釧路に集中していることだろう。石勝線と根室本線の新得〜釧路は札幌と帯広や釧路とを結ぶ特急街道のため、列車の行違いや追越し可能地点を多くすることによって特急のスムースな運行を可能にしているのである。なお、両線の接続地点であり「C:分岐点」を兼ねる上落合信号場は新狩勝トンネル内という珍しいスタイルだ(ほかに長崎本線の肥前三川信号場など)。

 このタイプAは、単線区間ということから都市部では少数派だが、東京近郊の例としてJR成田線の堀ノ内信号場(成田〜空港第2ビル)と京成成田空港線の根古屋信号場(成田湯川〜空港第2ビル)がある。ともに運行本数が多いことから、「成田エクスプレス」などの特急も行違いのための停車を余儀なくされているなど、信号場停車を体験しやすい。

 田沢湖線にある大地沢と志度内信号場も行違い列車が多い。この区間は秋田新幹線の在来線区間でもあり、新幹線電車(特急「つばさ」)などの行違いが見られる。両信号場がある赤渕〜田沢湖の駅間距離18.1キロに行違い地点を設けるために設置されたものだ。

■単線・複線が入り組んでいる路線と信号場

「B:複線区間の追越し」は比較的歴史が浅いタイプで、追越しなどのための待避線を持つ駅同士の距離が離れていることや、運行ダイヤの混雑度などを背景に設置されている。一例として、総武快速線の黒砂信号場(稲毛〜千葉)を見てみると、複線になっている同線に中線を1本設けて列車の待避用としているものだ。千葉駅から房総方面への普通列車が幕張車両センターとの間の回送運転をする際に待避するケースが多い。

 このBタイプのうち千歳線の西の里信号場(上野幌〜北広島)では貨物列車や旅客列車の待避が見られたが、現在は側線やポイントが撤去され往時の面影はなくなってしまった。その一方で、美々駅が2017年3月に廃止され、このタイプの信号場として活用されている。

「C:分岐点」タイプは、先の上落合信号場(根室本線・石勝線)や中小国信号場(北海道新幹線・海峡線・津軽線)、青森信号場(奥羽本線・青い森鉄道)、上沼垂信号場(信越本線・白新線)、川奥信号場(予土線・土佐くろしお鉄道中村線)あたりが代表例といえるだろう。上落合信号場など列車行違いなどの役割を持つ例があるものの、一般に停車列車は少ない。

「D:単線と複線の境界」はどうだろうか。地形などの関係から、路線によっては単線と複線とが交互に混在しているケースがある。代表例のひとつが羽越本線で、新津〜秋田271.7キロ中に単線区間と複線区間との境界は24カ所(単線・複線各12区間)。現在の同線ではそれらの境界はすべて駅になっているが、このうち折渡駅は1987年3月まではDのタイプの信号場であった。

 このタイプの現役では、奥羽本線の北赤湯信号場(赤湯〜中川)や、中央本線の普門寺信号場(茅野〜上諏訪)、関西本線の朝明信号場(桑名〜朝日)などがある。奥羽本線では北赤湯信号場〜中川2.8キロが、中央本線では普門寺信号場〜岡谷11.5キロがそれぞれ単線。山形新幹線「つばさ」や特急「あずさ」が行き交う大幹線に単線区間があるのはちょっと不思議な気がしないでもない。

 このほか、閉塞区間の境界に設置される例や、列車折り返しや留置のため(総武快速線の黒砂信号場はこれに近い)の施設などが見られる。

■駅になったり信号場になったり…ちょと変わった物件も?
 
 前段でも触れたが、近年目立つのが駅が廃止に伴い信号場へと鞍替えした例である。函館本線の姫川と北豊津、鷲ノ巣の各駅はそれぞれ信号場として設置されたのち、国鉄民営化(1987年4月)とともに駅になったものの、2016年から翌年にかけて再び信号場となった。石北本線や根室本線も駅の廃止が相次ぎ、下白滝と金華(石北本線)が2016年に、島ノ下と上厚内、直別、尺別の各駅が2017年から19年にかけて信号場に転換された。

 また石勝線の十三里と楓も信号場として生き残った廃止駅。十三里は追分駅起点13マイルの標識があったことが駅名となったユニークな例で、モスクワ起点距離がそのまま駅名となった例がシベリア鉄道にある。楓は2004年3月に信号場となったが、駅としての晩年は日曜日運休の普通列車が1日1往復きりという超閑散駅として知られていた。

 著名信号場としては、石北本線の常紋信号場(生田原〜西留辺蘂)が挙げられるだろう。スイッチバックを持つ信号場で、古くは蒸気機関車撮影の名所として人気を集めたが、2017年3月に廃止。信号場に接する常紋トンネルは、建設時の過酷なタコ部屋労働などをめぐり幽霊の目撃談が伝わる。

 そのほか、とさでん交通伊野線にある市場前信号場(鴨部〜曙橋東町)は道路上(併用軌道)にある珍しい例。1954年に開業したさいは停留所として設置されたものの、72年以降は信号場として運用されている。
  
 ざっと信号場のあれこれを覗いてみたが、このほかにもユニークな物件や興味深い歴史を持つも多く、探ってゆくとまた新たな発見と出会えるかもしれない。旅先の車窓や地図で、そんな隠れた停車場に注目してみてはいかがだろうか。(文・植村 誠)

植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。