“多摩ニュータウンの足”として、常にしのぎを削りあう小田急電鉄多摩線と京王電鉄相模原線。小田急と京王は、両社の多摩センターと新宿の間を競合する。2018年に入ると、京王は2月22日に座席指定列車「京王ライナー」がデビュー、小田急は3月17日に小田原線代々木上原〜登戸の複々線完成による多摩線のダイヤ見直しで競合はさらにヒートアップ! 将来は他社局の新線の開業により、どちらも重要性と利便性が増す見込みだ。



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■多摩センター駅の乗降客数は京王が圧倒的

 2019年度の多摩センター駅1日平均の乗降人員は、京王90,353人に対し、小田急は51,315人。これだけ大差がつくのはダイヤや運賃の影響が大きい(参考までに多摩都市モノレールの多摩センター駅は2018年度37,104人)。

 京王多摩センターは、新宿を起点とする京王線から調布で分岐する相模原線にあり、西側の終点は京王多摩センターから4駅の橋本である。京王多摩センター〜新宿29.2キロは330円(IC325円、運賃は以下すべて大人の額)と安く、日中の準特急は31分で結ぶ。しかも、相模原線のほとんどの列車は調布から京王線を走って新宿へ向かうので、沿線の人々にとっては安心感もあるだろう。列車によっては調布で、同一ホームで先に発車する京王線特急に乗り換えられることも相まって、利便性も高い。

 小田急多摩センターは、新宿を起点とする小田原線から新百合ヶ丘で分岐する多摩線にあり、西側の終点は小田急多摩センターの次駅の唐木田である。小田急の場合、小田急多摩センター〜新宿30.6キロは380円(IC377円)で、若干高い程度。日中は多摩線内で完結する各駅停車が10分間隔、新宿直通の急行が20分間隔で運転されている。上り急行は同区間を43分で結ぶが、途中の新百合ヶ丘で快速急行に接続しており、乗り継ぐと33分に短縮される。一方、各駅停車に乗って新宿方面へ向かうには、終点・新百合ヶ丘で隣のホームに移動しなければならない。

■小田急は複々線完成で巻き返し

 利便性に差が出るのは、京王は京王線と相模原線が主軸に対し、小田急は小田原線と江ノ島線であることが大きい。

 小田急は小田原線の複々線完成に伴うダイヤ改正を2018年3月17日に行い、多摩線の改善に乗り出した。

 小田原線複々線完成前の多摩線は、新宿〜唐木田を結ぶ列車が平日は各駅停車のみ下り4本、上り10本、土休の下りは各駅停車1本、上りは急行1本、各駅停車2本だった。それ以外の都心直通列車は、東京メトロ千代田線直通の多摩急行(朝と夕方以降に運転)および急行(日中のみ運転)である。急行の場合、新百合ヶ丘で快速急行に乗り換えることで小田急多摩センター〜新宿は35分を要した。

 複々線の完成後は、平日朝ラッシュ時の唐木田・小田急多摩センター〜新宿に通勤急行を設定し、小田急多摩センター〜新宿を約40分で結んだ。急行より停車駅は少ないが、ラッシュ時は運転本数が多い関係で、複線区間は飛ばしづらい区間もあるため、所要時間は急行よりかかる。これは京王も同じことで、この時間帯の京王特急や準特急も京王多摩センター〜新宿は約40分と同じである。しかし、小田急では小田急多摩センター始発をメインとすることで、“着席通勤”をアピールしたのだ。

 2020年現在、平日7時台の多摩センター始発の上り列車は、小田急の通勤急行4本に対し、京王は準特急と区間急行が各1本で、「ラッシュ時の新宿へは小田急が速くて快適」であることを沿線にアピールした格好だ。

 これが最混雑区間におけるラッシュ時の輸送人員に大きく表れた。

 複々線完成による列車の増発で、小田原線世田谷代田〜下北沢の混雑率は191%から151%(輸送人員はいずれも74,554人)に緩和された。しかし、2018年度の混雑率と輸送人員は157%(75,842人)に増加し、混雑緩和により利用客が増加したのがわかる。

 同様に、多摩線五月台〜新百合ヶ丘の混雑率と輸送人員も、複々線完成前の2017年度は86%だったが、複々線完成後は68%(いずれも9,593人)に緩和され、2018年度は72%(9,662人)に増加した。

 小田急の施策は京王の最混雑区間に大きく影響を与えているのは数字からも明らかで、相模原線京王多摩川〜調布の混雑率と輸送人員は2017年度130%(21,534人)だったのが、2018年度は124%(20,835人)に減少。京王線下高井戸〜明大前は2017年度167%(63,023人)だったのが、2018年度は165%(62,428人)と減少しており、通勤・通学客の流出が表れている。

■直通する「京王ライナー」と快適な「ロマンスカー」

 京王は小田急の複々線完成に先手を打つ形で、2018年2月22日にダイヤ改正を行い、座席指定列車「京王ライナー」がデビュー。新宿〜京王多摩センターを最速24分で結ぶ。座席指定券410円を足しても740円と割高感がなく、好評を博している。

 一方、小田急は多摩線直通の特急ロマンスカーが設定されていない。その分、平日下りの18時以降、新百合ヶ丘に停車する列車を多摩線ホームに充てることで、同一ホームで各駅停車に乗り換えられる。新宿〜新百合ヶ丘の特急料金は420円で、リクライニングシートに身をゆだねることができる。運がよければ新百合ヶ丘で乗り換える各駅停車でも、“着席帰宅”ができよう。

 新宿18時12分発から21時18分発までの江ノ島線直通快速急行および急行も同様の施策を行っており、多摩線沿線に住民にとっては“わかりやすい乗り継ぎ”といえる。「京王ライナー」に比べると、時間はかかるものの、多摩線直通の快速急行設定も含め、乗客の負担を最小限に抑える工夫をしている。

■新たな路線の開業で、利便性はさらに高まる!?

 京王にとって静かに待ち望んでいるのは、JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線の開業だろう(2027年開業予定)。相模原線の終点・橋本に駅が設置されることで、新宿〜名古屋は山手線で品川に出るJR線経由のルートよりも早いことが考えられる。開業の暁には、中央新幹線最速列車と「京王ライナー」のリレーにより、快適性の高い移動に期待したいものだ。

 小田急側にとっても、横浜市営地下鉄ブルーラインのあざみ野〜新百合ヶ丘の延伸開業が待ち遠しいだろう。多摩センター〜横浜は橋本で京王とJR東日本横浜線の乗り継ぎが有利な状況だが、予定通り2030年に開業すると、新横浜、横浜方面の近道になるものと考えられる。

 さらにブルーライン沿線の港北ニュータウンから、多摩線、多摩都市モノレールの乗り継ぎで立川方面への最短ルートも形成され、交通ネットワークが充実するはずだ。(文・岸田法眼)

岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。