英語力「ほぼゼロ」だった30歳から英語を学び、数年で「ペラペラ」になったタクシー運転手がいる。現在発売中の『AERA English 2020 Autumn&Winter』では、そんな「逸材」の中山哲成さんを取材。英エコノミスト誌にも取材された彼の「人生を変えた学習法」を紹介する。

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 タクシー運転手の「英語おもてなしコンテスト」で2018年に最優秀賞を受賞した中山哲成さん。さらに同年、同時通訳者や長期留学経験者も参加するスピーキングコンテスト「ICEE2018」でも、決勝進出を果たした。

 だがそのわずか4年前、中山さんの英語力は「ほぼゼロ」だった。

「タクシー会社に就職する半年前、東京がオリンピック開催地に選ばれて。外国人観光客も来るし、『6年あればなんとかなるかな』という軽い気持ちで、英語の勉強を始めました」

 もともと好きなことにはとことんハマる性分。最初にのめり込んだのは、書店ですすめられた教材『英語耳』を使った発音練習だった。毎日発音を録音して聞き直すと「日に日にネイティブっぽくなっていくことが嬉しかった」と中山さん。文法学習も同時に進め、知識は順調に増えていったが、しばらくすると「文法の間違いが気になり、言葉が出てこない」状態に。完全にやる気を失ったある日、報道番組のキャスターが言った「Let me introduce myself.」(自己紹介させてください)という一言を聞き、再びスイッチが入った。

「外国人のお客様への自己紹介は、My name is……以外に言い方はないものか、前々から悩んでいました。だからこの言葉を聞いた瞬間、これだ!と直感したんです」

■定型文を確実に暗記 会話が“引き締まる”

 早速このフレーズに名前と勤務先名を加えた自己紹介文を作り、繰り返し練習。すると2週間後、実際の接客でスムーズに言えたことで、自信がついた。

「会話集を丸暗記しても時間がたてば忘れるし、実際に使わないフレーズも多い。だったら、確実に使うフレーズを一つだけ選んで、完全に自分のものになってから次へ進むほうが、初心者は上達が早いと思います」

 この学習法のメリットはほかにもある。

「確実に言える『定型文』がいくつかあれば、フリーカンバセーションの部分が多少つたなくても、ところどころで言い慣れたフレーズを挟むことで会話全体を"引き締める"ことができます。英会話は定型文だけでは対応できないし、全部ゼロから考えるのも疲れる。両方を組み合わせたハイブリッドがおすすめです」

■オンラインで英文添削 聞いて話す力も伸びる

 その後も音読やオンラインレッスンなどで力を伸ばし、ここ2年ほどは主に、中山さんが「デイリーライティング」と呼ぶ学習に取り組んでいる。これは自分で作った英文をオンラインレッスンの講師に添削してもらう学習法だ。例えばレッスン中に話した英語をチェックしてもらう場合、講師は中山さんが使ったフレーズの中から気になったところをSkypeのチャットボックスに抜き出し、よりネイティブらしい言い方に書き換える。

「同じ方法で、英文の日記を添削してもらうこともあります。レッスン後は、自分で作った英文と講師の英文をまとめて印刷し、制服の内ポケットへ。毎日仕事の合間に見直したことでネイティブの表現がインプットされ、スピーキング力もリスニング力も伸ばすことができました」

 目下の課題は語彙力の増強だ。

「今は名詞を中心に勉強中です。動詞はgetやtakeなどをうまく使えば大抵のことは伝えられますが、名詞は替えがきかないので、覚えるしかありません。あとは語彙さえ増えれば、僕の英語力は最強かな、なんて思っているんです」

中山哲成(なかやま・てつなり)
高校卒業後、バンド活動などを経て、2014年からタクシー運転手。

(文/木下昌子)

※『AERA English (アエラ・イングリッシュ) 2020 Autumn & Winter』より