スマホは今や「日常必須のツール」だが、それと同時に非常に恐ろしい「依存物」でもある。

「特に、発育中の青少年にとっては最凶の依存物となり、人によっては依存症に陥ります。快楽と同時に不快も生じる、それが依存症の正体です」──そんなスマホ依存と、発達障害との関連について精神科医・中山秀紀氏の『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)からお届けする。

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記事は、スマホ依存と発達障害が相互的に悪影響を及ぼしあう可能性について、精神科医が実証的に解説したものですが、1月14日の配信時に編集部で付けた見出し「スマホ依存で『発達障害』に…本当に怖い“合併症”」は、両者の関連性や、発達障害そのものに対する誤解を招きかねないものでした。お詫びし、訂正します。
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 スマホやインターネット、オンラインゲームの依存症は、精神疾患ばかりでなく発達障害などを合併しやすいことでも知られています。

 構造化面接法という精神疾患などを同定する質問をインターネット依存症の人に行ったところ、注意欠如多動性症や社会不安症、強迫性障害、うつ病などの合併率が特に高かったと報告されています。このうち注意欠如多動性症についてはこれから説明しますが、社会不安症とは大まかにいえば、「人前に出ると不安や緊張が強くなる」こと、強迫性障害とは「何かに強くこだわる」こと、典型例では、何度もカギをかけたか確認するとか、手のよごれが気になって何度も手を洗いなおすといったものです。

<注意欠如多動性症(ADHD)との合併>

 では、注意欠如多動性症について説明しましょう。

 ここで取り上げる注意欠如多動性症(Attention−Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)と、次節の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、どちらも発達障害に分類されます。

 発達障害とは、大まかにいえば、「発達の度合いにばらつきがある」ことです。ある分野では正常(もしくはそれ以上の)発育をしているものの、ある特定の分野では発育が遅れていたり、社会生活に何らかの悪影響が生じていたりするときに診断される症状です。この診断は、通常は幼児期に受ける場合が多いのですが、思春期や成人期に悪影響が目立つようになってから発達障害だと診断されることもあります。

 その一つ、ADHDは、幼児期から多動(おちつきのなさ)や不注意、衝動性の高さ(我慢強くなさ)が目立ち、社会生活などに悪影響を及ぼすことのある発達障害です。そもそも子どもは大人よりも多動で不注意で衝動性の高いのが一般的ですが、それらが年齢相応の程度よりも目立つということです。有病率は子ども世代で3〜5%程度、成人世代で2〜2.5%程度とされています。

 たとえば「ドラえもん」に出てくる「のび太君」は、勉強中にはよく貧乏ゆすりをし(多動性)、忘れ物、落とし物が多い(不注意)などのADHD的な特徴が描かれています。

 インターネット依存とADHDの関連は広く知られています。たとえば韓国の小学四〜六年生の調査では、ADHD傾向の少ない生徒たちのIAT(インターネット依存度テスト)得点は50点以上(インターネット依存一歩手前〜依存症レベル)が3.2%だったのに対し、ADHD傾向の高い生徒たちでは、32.7%を占めたと報告されています。

 台湾の高雄医学大学のコー氏は、ADHDとインターネット依存が高い関連性を示す理由を以下のように仮説しています。

(1)インターネットは一般に現実社会よりレスポンスが速いので、衝動性のために待つことの苦手なADHD傾向のある人にとって心地よい。

(2)(ゲーム好きな人は)ゲーム中には脳内に快楽をもたらす神経伝達物質(ドーパミン)が放出されるため、(ADHDを持つ人は前頭葉のドーパミン系の神経伝達が不十分であることが知られており)現実生活でのストレスを、インターネットやゲームによる活動で補っている<インターネットやゲームによって、自己治療的にドーパミンを補っているということです。筆者注>。

(3)ADHDを持つ人はその衝動性のために自己制御がより困難なので、一旦インターネットにのめりこむと自己制御しにくい。

(4)ADHDを持つ人はその衝動性、過活動、不注意などの症状から現実生活では不適応を起こしやすいが、インターネット上ではこれらの症状が覆い隠される可能性がある<インターネット上では現実生活よりADHD症状が目立たない傾向にあるということです。筆者注>。

 ADHDの持つ性質が、スマホなどに依存させやすくしているのは間違いないだろうと思われます。さらに、もともとのADHD症状はさほど強くなくても、スマホ(特にゲーム)依存の影響で「負の強化」の不快さなどによる精神症状の悪化や睡眠問題も絡むことによって、不注意や衝動性などのADHD症状が悪化したように見える面もあろうかと思われます。このように、ADHDとスマホ依存症は、相互的に悪影響を及ぼしていると考えられます。

<自閉スペクトラム症(ASD)との合併>

 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)には、広汎性発達障害や、アスペルガー症候群などが含まれます。大まかに述べると、ASDの特徴には社会的コミュニケーションの障害、対人的相互反応の障害(たとえば表情や身振りなどによる非言語的コミュニケーションの欠落)、行動・興味・活動などが限定され反復的(何かにのめりこみやすい)といったことが挙げられます。

 このようにASDを持っている人は、「対人的相互反応における質的障害」や「コミュニケーションの障害」によって、学校などでの人間関係に支障をきたすことがしばしばあります。しかしゲームなどの共通の話題があると、コミュニケーションが比較的うまくいったりするものです。ASDの症状のために学校では孤立しがちでも、オンライン上のゲーム仲間とは(共通項があるために)楽しく会話できることがよくあります。「行動、興味、活動が限定していて反復・常同的」の性質によって、たとえば依存物ではない(であろう)数学の問題を解くことや科学研究にのめりこむと社会的に成功する確率が高くなると考えられますが、のめりこむものがスマホやインターネット、ゲームなどの依存物だと、依存症により接近してしまいます。

 ASDとインターネット依存は、「関連がある」「関連がない」という両方の報告があり、いまのところ結論づけられていません。その一方で、児童精神科外来受診者の報告では、中学生のASDを持つ人の10.8%、ADHDを持つ人の12.5%、ASDとADHDの両方を持つ人の20.0%が、IAT得点70点以上でインターネット依存が疑われたとされています。一般の中学生ではIAT得点70点の人はおおむね数%以内なので、かなり高い罹患率といえるでしょう。患者さんを診ている立場としては、この報告の通り、ASDとスマホ依存(インターネット依存やゲーム障害)は関連しているというのが実感です。

中山秀紀(なかやま・ひでき)
1973年、北海道生まれ。医学博士。医療法人北仁会旭山病院精神科医長。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年よりネット依存治療研究部門に携わる。同センター精神科医長を経て、20年4月より現職。