核・ミサイル実験を繰り返していたのが一転、対話モードへ転換した北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。中国、韓国、米国だけでなく、ロシアとも首脳会談を行い、積極外交に打って出ていた。各国の思惑と金委員長の狙いとは何か?

 まずは、6月30日、電撃ツーショットで世界を驚かせた米国との関係からみてみよう。

 北朝鮮は8月5日からの「米韓合同軍事演習」に反発し、7月25日と31日の2回、ミサイルを発射した。いずれも迎撃が困難な新型短距離弾道ミサイルと米韓は分析したが、トランプ大統領は、「問題ない」と一蹴。その直後の8月2日にも北朝鮮は短距離弾道ミサイルと思われる飛翔体を日本海に向けて再び発射。さらに発射の用意がある可能性も伝えられた(3日現在)。

 6月の米朝のツーショット以降、肝心の実務協議はまだ開かれていないものの、来年の大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領にとって「朝鮮半島の平和維持」は今のところ有効なカードの一つ。裏を返せば、金委員長にとってはトランプ氏が米国の大統領であるうちに制裁緩和を引き出さなければならないことを意味している。次の米朝首脳会談開催の期限を今年末にしたのもこうした計算からだといわれている。

 一連のミサイルの発射は米国本土に到達する長距離ではなく短距離というのがポイント。韓国に圧力をかけつつも、トランプ大統領との会話は維持したい金委員長の意図が読み取れる。

 次に、その米国と貿易戦争を繰り広げている中国。

 中国と北朝鮮は昨年からこれまで5回の首脳会談を行い、今年6月には14年ぶりに中国の国家主席が平壌を訪れた。以前はあいさつもしないと金委員長をソデにしていた中国だが、北東アジアでの米国の力は削ぐ必要があり、金委員長の動きをコントロールしたいのが本音といったところか。

 今年4月にはロシアが初めて金委員長を招聘し、ロ朝首脳会談が開かれた。ロシアの狙いは、北朝鮮がエネルギーパイプラインを韓国まで延ばす大構想の重要な経由地であること、そして、北朝鮮にある豊富な地下資源といわれている。

 さて、お隣・韓国。文在寅大統領は就任当初から北朝鮮には融和政策をとっている。朝鮮半島で「終戦宣言」「平和協定」が結ばれることが悲願だ。また、南北交流の象徴の開城工業団地や金剛山観光の再開を強く望むが、こればかりは北朝鮮の「非核化問題」が解決しなければ行えない。

 しかし、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないという見方が大勢だ。金委員長の最大の目的は体制維持で、そのために核保有は必須条件。米国とも核保有国への交渉に持ち込むとみられている。

 北朝鮮は米国から制裁緩和を引き出すことを最優先としているが、その先にあるのが日本との関係だ。経済立て直しの資金調達先として浮上する可能性が高い。小泉純一郎元首相が2002年9月に訪朝したときは北朝鮮では「100億ドルの資金が入る」と期待が膨らんだそうだが、今は200億ドルとも。北朝鮮は、徴用工問題では韓国にエールを送るが、これは後で日本と交渉し、多額の賠償金を引き出すためとみられる。

 それぞれの思惑が絡み、令和時代の北東アジア情勢はさらに波乱を含んでいる。(菅野朋子)

※週刊朝日  2019年8月16日号‐23日合併号