カマラ・ハリス上院議員(55)が民主党の副大統領候補に決まった。民主党大統領候補のジョー・バイデン氏(77)が勝利すれば、副大統領として初の女性、初の黒人、母親がインド出身であるため初のアジア系となる。多様な背景を持つハリス氏の存在はバイデン氏の大きな後押しとなりそうだ。他方、大統領選については懸念事項もある。AERA 2020年8月31日号の記事を紹介する。

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 ニューヨークのジャパン・ソサエティー理事長であり政治学者のジョシュア・ウォーカー氏は、ハリス氏の抜擢(ばってき)は「副大統領候補選びで、米国の歴史上、最も重要」と指摘した。

 白人男性で高齢、中道派のバイデン氏と、これほどぴったり補完し合える人選はない。

「ハリス氏は、人種・移民問題を自分の言葉で語れる、民主党の支持基盤の“将来”を担う」(ウォーカー氏)

 民主党が今後支持基盤として固めていきたいものの、投票率が伸び悩んでいた非白人と若者層という有権者の心を、ハリス氏はつかむことができるとみられている。

 また、ハリス氏はキリスト教のバプテスト派信者だが、インド生まれの母親はヒンドゥー教徒、夫で弁護士のダグラス・エムホフ氏はユダヤ人と、宗教的に幅広い支持を得られる。過去にキリスト教信者の支持者に偏っていた選挙戦に、新たな要素を加えそうだ。

 米議会で最高齢の女性黒人下院議員であるマキシン・ウォーターズ氏(民主党)は8月20日、MSNBCに出演し、語った。

「女性であり黒人の抜擢は、人びとに勇気を与える良い刺激。この国の政府が、(人種や性別を超えて)門戸を開いていることを、私たちに見せてくれた」

 ハリス氏は8月19日、党大会で副大統領候補の任を受諾する演説を行った。今年の選挙は「打倒トランプ」の大統領選として、前代未聞の重要性を強調し、こう締めくくった。

「この選挙は、この国の方向性を変える」
「将来、私たちの子供たちが『あの時、どこにいたの』『何をしたの』と尋ねるだろう。その時に、私たちが、何を、したのか、伝えるのです」

 前出のウォーターズ氏は、ハリス氏の演説についてこう指摘した。

「彼女は国民をつなげた。自分が何者であるのか、自分には何ができるのか、を示した。バイデン氏といいチームワークを築くだろう」

 最大の懸念は、大統領候補として最高齢のバイデン氏が、どう選挙戦を乗り越えるかだ。

 トランプ選挙陣営は、民主党大会開催に合わせて「ジョー・バイデンに何が起きたのか?」とするデジタル広告を、アクセスが多いコンテンツに対して掲載した。15〜16年に手のジェスチャーを加えて力強く演説するバイデン氏の映像と、「2020年」というテロップに重なる動画やニュース映像を組み合わせている。「ルーズベルト元大統領の“あれ”……が、分かるだろう?」と単語が思い浮かばなかったり、会見の途中に何を言っているのかわからなくなったりするバイデン氏──。暗にバイデン氏の高齢化に伴う健康不安をあおっている。

 トランプ陣営は、これだけでなく、民主党支持者が投票に行くのを阻むありとあらゆる手を講じている。例えば、新型コロナ感染の予防に対する意識が高い民主党支持者らが、投票所に行くのではなく、郵便投票をするのを阻む措置を講じている。8月半ば、郵便ポストが撤去される動画が、ツイッターなどに投稿され、米郵政公社が政治的に利用される懸念が高まっている。

 党大会最終日の同月20日、バイデン氏が大統領候補指名の受諾演説をした。冒頭、「四つの危機」として、新型コロナ感染拡大、経済危機、人種についての不正義、気候危機を挙げ、「この大統領(トランプ氏)」の下、米国は最悪の結果しか出していないと批判。それを大統領に就任した初日から克服する政策を打ち出すとした。

 ハリス氏については「女性、黒人、南アジア系で、多くの米国人の声を代表する」と評価した。バイデン氏は、演説後半、家族の絆を強調。伝統的な「古き良き時代」の演説になるかと思いきや、最後に「構造的な人種差別主義」に言及した。

「もっとも暗い時、最良の進歩が生まれる」

 人種差別主義への言及は、ハリス氏採用のモメンタムを利用し、より進歩的な有権者を得たいという考えの表れであることは間違いない。(ジャーナリスト・津山恵子<ニューヨーク>)

※AERA 2020年8月31日号より抜粋