民主党の党大会で最も注目を集めたのは、副大統領候補に決まったカマラ・ハリス上院議員だった。彼女は、選挙をどう変えるのか。AERA 2020年8月31日号の記事で取材した。

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「人種差別に効くワクチンはありません」

 と、民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領(77)に副大統領候補に指名されたハリス氏(55)。8月19日夜(米東部時間)、オンラインで開催中の民主党大会で、彼女は静かに自分が黒人でアジア系であるという「人種カード」を切った。

 中西部ミネソタ州の黒人男性が、白人警官に首を圧迫されて殺害された事件を受け、枯れ野に火を放つように全米に広がったブラック・ライブス・マター(「黒人の命も大切だ」、BLM)運動。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大で急増するアジア系市民へのヘイトクライム。新型コロナ拡大の抑制で期待がかかる「ワクチン」という言葉を使って、人種差別問題の根深さに切り込んだ。

「イエス、ブラック・ライブス・マター。私を信じてついてきてください」

 8月12日、バイデン氏がハリス氏と初めて開いた会見でも、はっきり言った。

 米大統領選の新星、ハリス氏は、何者か。

「初」がこれほど付く副大統領候補者はいないだろう。今年11月3日の投開票日に民主党のバイデン氏が勝利すれば、副大統領として初の女性、初の黒人、母親がインド出身であるため初のアジア系となる。父親は黒人だが、アフリカ系ではなく、ジャマイカ出身のカリブ海系でこれも初となる。

 黒人の人権を求める公民権運動の真っただ中である1964年に生まれ、インド人の母とジャマイカ人の父という極めて珍しい異人種カップルの間で育った。運動家、そして政治家となったのは、唐突なことではなかったのかもしれない。

「インドから来た母と、ジャマイカから来た父は、世界一の高等教育を受けたくて米国に来て学生時代に出会った。そして、私をベビーカーにしっかりくくりつけて多くのデモに行った」

「母は、踏んぞり返って、文句ばかり言っていてはダメ、何か行動を起こしなさいと言って、私たちを育てた」(8月12日の会見で)

 ロースクールを修(お)えてカリフォルニア州弁護士協会に入ると、サンフランシスコ市地方検察局に就職。2003年選挙でそのトップの地方検事に当選する。米紙ニューヨーク・タイムズによると、彼女にとって初めてだったこの選挙では、スーパーマーケットの駐車場で、テーブル代わりにアイロン台を広げ、選挙戦を繰り広げた。

 その後、カリフォルニア州司法長官に就任し地元の票を固め、16年、上院議員に当選した。黒人女性で2人目、南アジア系で初の上院議員となる。1年生議員ながら、副大統領候補に指名された。くしくも、バラク・オバマ前大統領が、大統領候補となり当選を果たしたのも上院議員1期目だった。彼女の「抜擢(ばってき)」には、オバマ氏が登場した時のフレッシュさが重なる。

「この4年間でこんなに素敵なことはなかった」

 ハリス氏の名が副大統領候補として発表された際、テレビドラマ女優ジェニーバ・カー氏は、興奮して筆者にメッセージを送ってきた。16年大統領選では、ヒラリー・クリントン民主党候補(元国務長官)の電話センターに詰めて選挙戦を支援したが、ドナルド・トランプ共和党候補(当時)が当選し、打ちのめされた。彼女のようなリベラル派の有権者は、ハリス氏の登場に熱狂している。(ジャーナリスト・津山恵子<ニューヨーク>)

※AERA 2020年8月31日号より抜粋