郵便による投票という慣習が、米大統領選挙という政治に利用され、危うくなっている。 11月3日の投開票日に果たして、すべての票がカウントされるのか。AERA 2020年9月7日号から。



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 歩道にある青い郵便ポストの脚が切り取られ、ポストがトラックの荷台に積まれていく。そんなビデオや写真が、8月中旬、ツイッターで拡散された。

 引っ越した際、自宅に一番近い郵便ポストや郵便局を確かめる──。米国人なら誰もがする行為だ。

 日本と異なり、米国人は、どんなに年をとっても誕生日にカードやギフトを贈る。クリスマス時期もカードやギフトが郵便サービスに殺到する。移民が多いため、送金もある。筆者は、家賃の小切手を毎月郵送している。それだけ必要とされている郵便ポストがなくなるショックは大きい。

 さらに郵便サービスの人気の理由は、海外に派遣されている米兵士とのコミュニケーションを支えてきたことだ。

 この郵政公社(USPS)のサービスが、突然、11月3日が投開票日の米大統領選挙の焦点となった。

 USPSは7月の通知で、「郵便投票」が開票日に間に合うように届くことを保証できないと警告した。経費削減による郵便ポストの撤去、仕分けセンターの閉鎖などが理由だ。

 トランプ大統領も8月12日、恒常的な赤字に苦しむUSPSへの250億ドルの特別な歳出を認めないと発表。同氏が過去何カ月も、郵便投票は、不正がまかり通ると主張してきたことに沿った発表だ。しかも、郵便投票が増える見通しの大統領選挙の結果を受け入れるかどうかの明言も避けている。

 英BBCによると、投票用紙を申請し、送られてきた用紙に記入した上で郵送する郵便投票は過去、総投票数の4分の1を占めるという。投票所から離れたところに住むブルーカラーの有権者が伝統的に利用してきた投票の方法だ。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、今年は「密」を避けたい民主党支持者が、郵便投票に殺到するという見方が広がった。「マスク着用の行政命令は個人が(マスクをするかしないか)選ぶ権利を奪う」として、マスク着用を頑として拒否するトランプ・共和党支持者に交じって投票所に並ぶリスクを嫌う民主党支持者は多い。

 これを警戒したトランプ氏が「郵便投票では不正がまかり通る」「死人も犬も投票できる」と発言し続けていたところ、郵便ポストが撤去される映像が広がった。

 民主党が多数派の下院は、ルイス・デジョイUSPS長官を召喚し、議会で証言を求めた。同長官は、コスト削減ということで続けていた改革を投開票日後まで一切やめると証言。郵便ポストがなくなるショックや不安は当面は取り除かれた。

 しかし、市民の間では不安は広がっている。筆者が8月中旬にニューヨーク州内に送った小包が、知人宅に届いたのは7日後だった。まるで国際郵便並みの時間のかかり方だ。市民の間でも同じような体験がソーシャルメディアでシェアされ、「投票所に行くしかない」というコメントも多い。

 ちなみに、デジョイ長官は、USPSのたたき上げではなく、ブッシュ政権時代から共和党の資金集めで功績を収めてきたビジネスマン。トランプ氏が選んだUSPSの監査委員会が今年5月、デジョイ氏を長官に選んだ。

「忖度(そんたく)」という文字が、有権者の頭に浮かぶ。郵便投票だけでなく、11月の投開票が無事に終わるのかが最大の焦点だ。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

※AERA 2020年9月7日号