「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第32回は、コロナ禍で活況を呈するオンラインカジノについて。



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 コロナ禍のなかでカジノ……。テレワークが広がるように、オンラインカジノが盛んになりつつあるという。

 フィリピンのマニラ。その実態は正確にはつかめないが、中国人相手のオンラインカジノは300軒以上といわれる。多くがビルのワンフロアを貸し切る形で営業している。

 今年の旧正月の大みそか、フィリピンのマニラにいた。エルミタの繁華街は、道を歩くのも大変なほど中国人で混みあっていた。周囲にはフィリピン料理店やカフェを凌駕するように中国人向けの規模の大きなレストランが軒を連ねていた。席はほとんど埋まっていた。
そのころ、新型コロナウイルスは中国の武漢で猛威をふるっていた。その後、世界がコロナ禍に包まれていくことなど誰も予想していなかった。当の中国人も旧正月休暇を使い、大挙してマニラを訪れていた。

「若者が多いでしょ。この辺に住んで、オンラインカジノで働いている中国人ですよ。今日は大みそかだから、カジノも休みなのかもしれない」

 マニラ在住の知人が教えてくれた。

 法律の隙間をすり抜け、中国人向けオンラインカジノはフィリピンやカンボジアで広まっていった。本国では開設できないため、海外に進出するカジノはオフショアカジノともいわれる。悪質なカジノも少なからずあり、トラブルも多かった。中国政府もそれらの国々に、オンラインカジノをとり締まるよう要請を出していた。カンボジアからは中国人向けオンラインカジノは消えたが、フィリピンはまだ多くのカジノが営業していた。カジノのおかげで不動産価格が上昇しているためだといわれる。

 中国人向けカジノは、オンラインといってもバーチャルな空間をつくりあげていた。モニターには実際のカジノが映しだされ、カメラの前に中国人女性スタッフが待機している。ズームと同じ構造だと思えばいい。客はモニターに向かってオーダーを出すと、それを聞いたスタッフがチップを指示された場所に置いてくれるのだ。

 こういったオンラインカジノを開設するには、実際のカジノ並みのスペースが必要になる。ビルのワンフロアを借り切るのはそのためだった。カジノで働く中国人スタッフも確保しないといけない。フィリピンでは10万人以上の中国人がカジノで働いているのではないかといわれている。彼らのアパート需要も生まれる。

 法的な問題で海外で開設されたオンラインカジノだが、コロナ禍のなかでフィリピンのそれは活況らしい。中国とフィリピンの間の人の往来がコロナ禍で制限され、スタッフの増員が難しいというが。フィリピン政府のなかにも、違法カジノのとり締まりや課税の話があったが、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、その動きも緩慢だという。

■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)