世界唯一の超大国が、一人の男の振る舞いで混迷の度を深めている。



 米大統領選は、激戦州の一つであるペンシルベニア州で民主党のバイデン前副大統領の優勢が明らかになり、トランプ大統領の敗北が決定的となった。

 それでも、トランプ氏は引き下がらない。記者会見では、「彼らは汚いやり方で選挙に勝とうとしている」とバイデン陣営を批判。選挙が不公正だったと繰り返しアピールしている。

 具体的な証拠は何一つ示していない。だが、トランプ支持者たちはこれに呼応した。

 6日には、ライフル銃で武装したトランプ支持者たちが、激戦州の開票所に集結。「民主党が選挙を盗もうとしている」と批判し、開票作業の中止を求めた。

 一方、ニューヨーク州では、バイデン支持者が最後の1票まで数えるよう求めるデモを開いたが、警察と衝突して50人以上が逮捕された。ニューヨーク在住のフリージャーナリストの新垣謙太郎氏はこう語る。

「トランプ支持者は、2016年の前回大統領選のときよりもさらに熱狂的になっていて、バイデン支持者からは『お互いに憎しみ合う姿に落胆した』という声もありました。米国の分断はますます深まっています」

 ただ、トランプ氏が逆転勝利するための手段はほとんど残されていない。トランプ陣営は今後、激戦州での開票の差し止めや再集計を求める提訴を連発するつもりだ。しかし、国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう指摘する。

「トランプ氏が批判していた郵便投票については、すでに選挙期間中に差し止めを求めていて連邦最高裁で審理されています。ですが、保守系の判事もトランプ氏の主張を認めずに却下しました。法律の世界では今後もトランプ氏の不当な主張は通用しないでしょう」

 それでも、トランプ支持者は徹底抗戦の構えを崩さない。トランプ氏の周辺もあおっていて、顧問弁護士のルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長はその一人だ。敗北が濃厚になると、「(選挙で)大規模な不正があった」と主張。元司法次官でもあるジュリアーニ氏は、訴訟の準備を進めているという。春名氏は言う。

「もはやトランプ氏の周囲にいるのはイエスマンだけ。ジュリアーニ氏もその一人です。しかし、バイデン氏を『認知症』と批判するなど偏った言動が警戒されていて、昨年12月には、大統領補佐官がトランプ氏に『ジュリアーニ氏はロシアの諜報(ちょうほう)員がデマを流すルートとして利用されている』と報告しています」

 トランプ氏のスピリチュアル・アドバイザーを務めるポーラ・ホワイト氏も批判にさらされている。4日に開いた集会で、トランプ氏を非難する人々を「悪魔の同盟」とののしり、トランプ氏再選のために「アフリカと南米から天使たちが派遣された!」と訴えた。

 ホワイト氏は著名なテレビ宣教者で、ホワイトハウスではトランプ政権と保守系キリスト教信者の結びつきを仕切っている人物だ。新垣氏は言う。

「米国の保守的なキリスト教徒は、今までの政治家は自分たちの意見を聞いてくれなかったと思っていて、それがトランプ氏への宗教的とも思えるほどの熱烈な支持につながっています。トランプ氏が選挙に負けても米国の分断は終わらず、修復にはかなりの時間がかかりそうです」

 トランプ氏によって米国が受けた傷は深い。本当の敗者は米国の民主主義ではないか。(本誌・西岡千史)

※週刊朝日  2020年11月20日号