米大統領選挙は、民主党候補バイデン氏が勝利したが、トランプ大統領が敗北を認めず、いまだに米社会には暗雲が立ち込めている。新政権の課題は山積みだ。AERA 2020年11月23日号の記事を紹介する。

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 米大統領選挙の余波は、続く。

 筆者のアパートの家主パルマ・フランシスコ氏は毎日、トランプ氏のように、マスクをせずに近所を歩いている。

「ゴー、トランプ」

 というショートメッセージを送ってよこし、立ち話をすると、こう語る。

「トランプは、ニューヨークで新型コロナウイルスの爆発的感染が起きた時、病院船も送ってくれた。国際会議場を病院に改築するために兵士も送ってくれた。それなのに、今になって新型コロナの感染拡大を彼のせいにするのはフェアじゃない」

 トランプ氏がマスクをすることを拒否し、彼の家族や側近、全米のトランプ支持者がマスクをせず、野火のように新型コロナ感染が拡大しているという事実を、彼女は気にもしない。米国の新規感染者数は11月11日、約14万4千人と、10万人を大きく超え、未知の領域に入った。

 バイデン氏は、当選を確実にする史上最高の約7785万票を獲得したが、トランプ氏も約7256万票と、歴代の敗者の得票をはるかに上回る(11月12日現在、米紙ニューヨーク・タイムズのウェブ版による)。それほど、4年間トランプ氏の国家主義「アメリカ・ファースト」に酔いしれた国民が根強く存在し、米国民の「選択」が真っ二つに分かれた。

■政権移行を阻む措置

 トランプ氏は、公の場に出ることもなく、存在感を消しているかに見えるが、実は、バイデン新政権への移行を困難にする措置を着々と行っている。オバマ前大統領が2016年、投開票日の2日後にトランプ氏をホワイトハウスに招待したのとは、大きく異なり、バイデン氏は当確から5日経ってもホワイトハウス入りしていない。

 政権移行の妨害は、深刻だ。

 第1に、国防総省(ペンタゴン)では、反トランプ派の幹部がわずか2日間で4人解任されるか、辞任した。その中には、トランプ氏にツイッターで解任されたトップのマーク・エスパー国防長官が含まれる。同長官は今夏、黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害された事件をきっかけに起きた「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」デモに対し、トランプ氏が連邦軍を送ろうとしたが、記者会見を開いて公式に派兵を否定した。「危険なレベルに達していない」というのが理由だが、民間人の非武装デモに、武装した兵士が配備されるというのは異常事態だ。

 エスパー長官に続き、高官のジェームズ・アンダーソン国防副次官(政策担当)が自ら辞任。つまり、国家安全保障という最優先事項について、新政権移行の際に行われる「引き継ぎ」をする幹部4人が、空席という事態だ。米誌ニューズウィークは「安全保障を犠牲にしても、トランプはバイデンの政権移行に徹底抗戦する構えか」と書いた。

 第2に、選挙をめぐる開票作業や訴訟がいまだに続いており、逆転を期待するトランプ派市民を活気づかせていることも事実だ。

■ジョージア州は再集計

 ニューヨーク州は、投開票日の11月3日の1週間後である10日から、不在者投票と郵便投票の開票作業をやっと始めた。トランプ陣営は11日、選挙が「不正」だったという理由で、バイデン氏が勝利した中西部ミシガン州で選挙結果を承認しないことを求める訴訟を連邦地裁に提訴した。ロイター通信によると、同州報道官は、トランプ陣営が選挙の信頼を損なうような虚偽の主張をしていると反論。「訴訟を起こしても真実は変わらない。ミシガン州の選挙は公正、安全かつ透明性ある形で実施され、結果は市民の意思を正確に反映している」と述べた。

 一方、接戦となっている南部ジョージア州は、バイデン氏とトランプ氏の得票が僅差(きんさ)であるため、全ての票を手作業で再集計すると発表した。

 第3に、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ政権当局者は連邦政府機関に対し、政権移行手続きを進めるために必要な一般調達局(GSA)が正式に勝者を認定するまで、バイデン氏チームの政権移行の準備を進めないよう指示している、と報じた。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

※【「ジョージア州が大変だ!」上院選挙の結果次第でバイデン氏は厳しい船出? 大統領選の勝利後も続く“選挙モード”】へ続く

※AERA 2020年11月23日号より抜粋