国際協調路線への復帰と新型コロナウイルス対策の重視を掲げるバイデン氏の経済政策に対する期待は大きい。トランプ政権下で先鋭化した米中貿易摩擦の緩和や、コロナ危機への巨額財政政策が、日本経済にもプラスになると思われている。



 そうした期待感もあり、バイデン氏の当選確実が伝えられた11月9日の日経平均株価は2万4839円とバブル崩壊後の最高値を更新。その後も上がり、13日終値は2万5385円に達した。

 マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆さんは、米中関係の改善が中国でビジネスを展開する日本企業に恩恵をもたらすと期待する。中国は、日本にとって最大の貿易相手国だ。

「(工作機械メーカーの)ファナックや(建設機械メーカーの)日立建機をはじめ、中国で事業を手がける日本企業は多い。中国への関税や中国企業を対象とした経済制裁が見直されれば、中国経済はもちろん、同国に進出する企業にとって大きな安心材料になります」

 通商政策に詳しいオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介代表も言う。

「トランプ政権が経済や産業界に与えていた最大の恐怖は、予見可能性の喪失です。企業は先行きを見通せず、投資計画や調達計画を立てられずに困ってきました。バイデン政権が今後、仮に人権問題や気候変動対策で中国などに対して厳しい制裁措置を取ったとしても、一貫した方針に沿ったものなら経済界も納得するでしょう」

 ただし、すべてがバラ色になるかというと、そうとは限らない。楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之さんは、こう語る。

「中国のハイテク企業への制裁は緩めないでしょう。トランプ氏のように制裁対象の中国企業と取引する会社にまで規制の手を伸ばさないのであれば、日本企業にもプラスですが、先端技術を巡る米中の覇権争いそのものは続くとみています」

 米国経済に詳しいみずほ総合研究所欧米調査部長の安井明彦さんも、こう指摘する。

「中国への厳しい姿勢は変わらない。特に先端技術は安全保障にも大きく関わるので譲歩しにくい。そのため日本は、米国の対中政策に関する交渉や調整の過程で、日本が不利な状況にならないよう働きかけていく必要があります」

 住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストが心配するのは、石油など化石燃料からの転換に伴って生じる「痛み」だ。バイデン氏の環境重視の姿勢は、石油・ガス業界には逆風となる。

「シェールオイルの開発で、米国は今や世界1位の原油生産国。しかし、『脱化石燃料』が進めば、これまで築いてきた雇用や資本も損なわれる。構造転換の過程で原油相場が一時的に混乱する恐れもある。原油を輸入に頼る日本もひとごとでは済まない」

 巨額の財政出動への懸念もある。歳出の拡大は、金利の上昇を招く。相場研究家の市岡繁男さんは、

「米長期金利の上昇が引き金になって今まで続いてきた相場の流れが反転する可能性がある」

 と警鐘を鳴らす。

「2008年のリーマン・ショック以降、株式市場ではIT関連などのハイテク株が買われ、鉄鋼やエネルギー関連といったバリュー株が売られる流れが続いてきました。また、米国債や金といった貴金属が買われる一方で、新興国の国債や原油などは売られてきた。こうした相場全体の長期的な動きが今、ピークを迎えつつある。要注意なのは、足元で上がっている米長期金利。金利が上がると株価は下がる。株価の天敵です」

 長い下落相場に突入しかねないというのだ。ただし、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、こうした見方に否定的だ。

「確かに、財政出動でさらに金利が上がる可能性はあります。しかし、米議会は、上院は共和党、下院は民主党が過半数を握る『ねじれ議会』になる可能性もある。ねじれ議会となれば、公約どおりの政策の実現は難しくなります。また、バイデン氏は、トランプ氏よりも米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を重視するとみられ、金利の行方を左右する金融政策も大きく変わらないのでは。結果的に金利の急激な変動は考えにくい」

 金融市場では、「バイデン色」がフルに発揮されないほうが、歓迎されるのかもしれない。(本誌・亀井洋志、池田正史、秦正理)

※週刊朝日  2020年11月27日号