人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、フロリダのパームビーチに住む友人と話した米大統領選について。



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 フロリダのパームビーチに住む高校時代の友人と電話がつながった。

 彼女は日本でも富裕層に属して、夫はアメリカの銀行マン。二人とも、共和党支持者である。

 ニューヨークのパークアヴェニューにアパートメントがあり、冬場はパームビーチの邸宅に移住する。

 トランプ氏の別荘のある会員制リゾートではなく、昔からのパームビーチの高級住宅地に住む。

 たまたま現在のお手伝いさんは以前、トランプ氏の所に勤めていた。トランプ氏の姉とは同じ美容院に通ってもいた。

 そのトランプ氏については「とてつもなくケチ」「自分に得になることしか興味がない」と、ろくな話は聞かなかったという。

 その原因はトランプ氏の育った環境にあり、母親は金儲けが一番大事なこととして教え、父親はともかく他人の言うことに反対しろと言った。この世は男が上で、女については差別するのは当たり前という意識だった。

 なぜ、こういう人を熱狂的にアメリカ人は先の選挙で勝利させたのか。そして今度の選挙でも、敗れたとはいえ先のオバマ大統領よりも得票数が多かったとか。

 友人の分析では、一種の宗教であり、アメリカ的マッチョ好きな信者たちがトランプ氏の言動にあおられた結果であり、ナチと変わらないとまで言い切った。

 したがって彼女はもちろん、今回はバイデン氏に一票を入れた。彼女のまわりの共和党支持の人たちもほとんどそうした。

 選挙ではフロリダ州はトランプ氏が取ったのだが、パームビーチ、マイアミなどは全く逆だったという。

 そして、選挙結果に「ほんとうにホッとした」という声が弾んでいた。
 この四年間で、アメリカが壊れていくのを多くのアメリカ人が呆然と眺めていたという。

 一体この四年間は何だったのか。

 アメリカだけが良ければいいという「アメリカ・ファースト」の言葉もよく聞かれた。事あるごとにそれを口にすることは、アメリカがファーストでなくなりつつある証拠であった。彼がアメリカと口にするときの発声は格別であり、あまり耳にしたくなかった。

 パームビーチの友人はこう言う。三権分立は民主主義の基本。日本もそれを真似ているが、大統領が民主党のバイデン氏になり、議会で共和党が多数となれば、バランスが取れるのではないか。トランプ氏は人々の感情を苛立たせ、私たちはすっかり疲れてしまったと。

 この後、どうなるか。バイデン氏も大変だと思うが、彼女はアメリカの二大政党制にも疑問を呈していた。

 彼女は一年に春秋二回、日本にもどってするべき仕事もあり、そのたびにトランプ氏への危惧を語っていたが、今年はコロナで来日できず、「来年春、桜の咲く頃に会いたいね」と電話で言った。さてその頃、アメリカは、日本は、世界はどうなっているか?

※週刊朝日  2020年11月27日号


■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数