日米同盟を基軸とした日本の防衛が揺さぶられている。中国とロシアの合同艦隊が津軽海峡を通過。米軍制服組トップは中国の最新兵器に強い危機感を示している。AERA 2021年11月22日号から。

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 日本政府が日本の防衛について語る際、念仏や題目のように「日米同盟の強化」を口にする。しかし、日本自身の防衛を米国に頼り切っている現状について、真剣に再考を迫る具体的な動きが持ち上がっている。強力な中国・ロシア合同艦隊の津軽海峡通航と、米軍トップによる中国軍の極超音速(ハイパーソニック)兵器に関する畏怖(いふ)の念の表明である。

■日本が自ら主権を制限

 防衛省などによると、駆逐艦2隻、フリゲート2隻、補給艦と潜水艦救難艦それぞれ1隻の計6隻で編成された中国艦隊が10月11日、対馬海峡を通過。東シナ海から日本海に入りロシア海軍との合同訓練に参加した。その後、潜水艦救難艦を除く5隻の中国艦隊が、駆逐艦2隻、フリゲート2隻、それにミサイル観測支援艦1隻で編成されたロシア艦隊と中ロ合同艦隊を編成し、日本海から津軽海峡を通航して西太平洋に進出した。

 さらに10隻の中ロ軍艦は同月22日、大隅海峡を通航して東シナ海に入った。その後、中国艦隊は東シナ海を渡って中国に帰投し、ロシア艦隊は対馬海峡を通過して日本海をウラジオストクに向かった。

 中ロ艦隊によるこのような動きは、ますます強力化していく中国海軍戦力と復活しつつあるロシア海軍戦力による日本への示威活動という側面だけで捉えてはならない。日本で問題にされるべき論点は、日本の国防姿勢である。

 中ロ合同艦隊が津軽海峡、そして大隅海峡を堂々と通航したのは、それらの海峡が1977年に公布された日本の法律である「領海及び接続水域に関する法律」で、「特定海域」に指定されているためである。

「特定海域」という日本独自の制度は、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡(東水道ならびに西水道)、大隅海峡における日本の国家主権を自発的に制限して、民間船はもとより、いかなる国の軍艦でも、日本に何の遠慮も警戒もせずに、それらの海峡を大手を振って通航することを可能にしている。これは国際軍事常識からすると、いたって奇妙な制度なのである。

■5海域で領海幅を縮小

 どのように主権を放棄しているかというと、日本は日本領土沿岸から12海里までの海域を日本領海と規定しているにもかかわらず、それら五つの海域では領海幅を3海里に縮小して、海峡中央部を公海、すなわち日本の主権が及ばない海域と宣言している。

 国連海洋法条約では、国際交易や国際交通にとって必要不可欠な海峡とその上空については、沿岸国の主権を制限し、どんな国の艦船や航空機も通過可能にする「国際海峡」の制度が採択されている。しかし、日本の「特定海域」は日本自らが主権を完全に放棄して、海峡中央部に公海を設定している点で「国際海峡」とは異なっている。

■頼みの綱の米軍に激震

 問題なのは、このような主権放棄を法定した理由である。この法律が制定された当時、米軍は日本海に核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を潜航させ、当時のソ連を先制攻撃する作戦を保持していた。ところが、日本の海峡に公海部分が存在しなければ、核ミサイルを搭載した米軍艦が通過する場合、日本の「非核三原則」に抵触してしまう。そのため、日本政府は自ら海峡部での国家主権を放棄することで、米軍艦が日本側に何の気兼ねもなく通過できる抜け道を設定したのだった。

 日本が国防を米国に頼り切っている限り、米軍艦が自由に日本の海峡を通航するための「特定海域」を維持し、自らの国家主権を放棄する状態が続くことになる。

 しかし、その頼みの綱である米軍に、激震が走っている。

 米軍トップの統合参謀本部議長ミリー大将は10月27日、米ブルームバーグのテレビのインタビューで、中国軍の新型の極超音速兵器のテストが進展している状況について「スプートニク・ショックの再来のような事態だ」と明言した。

 中国軍が間もなく完成させると考えられているこの兵器は「部分軌道爆撃システム」と「極超音速滑空体」を組み合わせた新型ミサイルで、弾道ミサイルと長距離巡航ミサイルの利点を併せ持った強力な兵器だ。

 超高速で飛翔(ひしょう)する弾道ミサイルを撃墜するのは極めて困難だが、弾道ミサイルは放物線状を描いて飛翔するため、迎撃側には弾道の予測計算が容易だ。だから弾道ミサイル迎撃システムが開発されているのである。

 一方、長距離巡航ミサイルは飛行機のように自ら針路を変えながら飛翔するため、針路の予測に基づく迎撃は不可能に近い。ただし、速度は弾道ミサイルに及ばないため、高性能防空システムで迎撃できないことはない。そのため、巡航ミサイルによる攻撃には大量のミサイルを発射する必要が生じる。

 中国軍の新型兵器が採用した「部分軌道爆撃システム」とは、ミサイルを地球の周回軌道に打ち上げて軌道上から目標を攻撃するという原理だ。60年代後半にソ連軍が実用化したものの、米国との第2次戦略兵器制限交渉によって廃棄させられた経緯がある。この原理を中国軍が再び実用化したのである。

■米防衛システムが無力

 このシステムを用いると、地球上のどこでも攻撃可能なことになる。要するに中国軍の新型極超音速ミサイルの射程は無限になる。そして、文字通りにミサイル弾頭には極超音速滑空体が採用されている。この滑空体は、長距離巡航ミサイルのように自ら針路変更を繰り返すことが可能で、少なくとも音速の5倍(マッハ5)以上の超高速で攻撃目標に突入することになる。自ら変針を繰り返しつつ攻撃目標に接近する極超音速滑空体の飛翔経路を、放物線を描く弾道ミサイルのように推測することは不可能だ。

 したがって、米軍が開発してきた弾道ミサイル防衛システムや各種高性能防空システムは、現状では、中国軍の新型極超音速ミサイルには無力と言わざるを得ない。さらに米軍にとって悪いことには、新型極超音速兵器の弾頭に中国軍が開発を重ねてきた「対艦攻撃用」の極超音速滑空体が装着された場合、米海軍の空母や強襲揚陸艦は世界中の海域で深刻な脅威にさらされることになる。中国からはるかに離れたアラビア海や大西洋、そして地中海などを航行中の米海軍空母や強襲揚陸艦を撃沈することも可能になるからだ。

 このように、これまで世界最強とされてきた米海軍空母艦隊は、その地位を失いつつあるとするならば、米国の海軍力を根幹とする日米同盟に自国の運命を頼り切っている日本の国防への影響は計り知れない。日本政府も国民もこのことを認識するべきであろう。(軍事社会学者・北村淳)

※AERA 2021年11月22日号