ウクライナに侵攻したロシア軍は再編成して東部に兵力を集め、親ロシア派支配地域があるドネツク・ルハンスク両州などで進軍する。今後の戦いはどうなるのか。ロシアの狙いは何なのか。軍事ジャーナリスト 田岡俊次さんが解説する。AERA 2022年5月2−9日合併号の記事を紹介する。

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 ロシア軍の侵攻開始以来2カ月、ウクライナ軍の善戦健闘は続いている。4月13日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」(1万1300トン)にウクライナ製地対艦ミサイル「ネプチューン」2発が命中、撃沈した事件はこの戦争が弱小国の「抵抗」の域を脱し、近代的工業国家同士の戦いであることを示した。

 ウクライナはソ連時代からミサイル・ロケット砲の開発、製造の中心地で、外国軍に輸出も行い、モスクワに届く射程500キロの弾道ミサイルも生産する。ロシア国防省は「モスクワ」は弾薬庫の火災で沈没と発表したが、ウクライナの新鋭兵器に負けたことを国民に伝えれば士気に関わると考えたのだろう。

「モスクワ」は1982年12月に就役し、艦齢40年、水上艦の耐用年数は30年程度だから老朽艦で、搭載している対艦ミサイルも旧式だ。戦力喪失の打撃は大きくないが、艦隊司令官や参謀などを含め約500人が乗っている旗艦があっさり撃沈された心理的打撃は少なくあるまい。

「ネプチューン」の射程280キロ圏内にロシア艦隊が入れば標的になるから、要港オデーサ付近への上陸作戦は困難になる。

 陸上ではロシア軍は首都キーウの包囲を完成できなかった。南東部のマリウポリだけでも陥落させ、親ロシア派地域ドネツク、ルハンスク2州の海への出入り口を確保しようと兵力を集中、懸命の攻撃をしている。5月9日の対独戦勝利記念日でそれを出し物にする狙いだろうが、ウクライナは領土を奪回するため戦闘を続けるからロシア軍は勝利を祝うどころではない。

 開戦から1カ月の3月23日にNATO(北大西洋条約機構)当局者は「ロシア軍の死者は7千人ないし1万5千人」との推計を示した。負傷者は死者の約2倍が普通だから、死傷者は最も低く見積もっても2万人。その後の1カ月でも同様とすれば死傷者は4万人を超える。侵攻したロシア軍は15万人、東部の分離派民兵が4万人で計19万人だから22%の人的損害だ。

 米メディアは4月9日、ロシアはウクライナ作戦の司令官に南部軍管区司令官A・ドゥボルニコフ大将を任命したと報じた。本来なら戦争を始める前に司令官を決め、陸、海、航空宇宙など全軍が連携して計画を練る。だが今回の侵攻は「特別軍事作戦」で、演習に集めた部隊を越境させ、威嚇で抑え込むつもりだったのか、燃料、実弾などの準備も乏しく、60キロもの大縦隊が路上で停止する事態が起きた。真剣に侵攻するなら開戦と同時に全力で航空攻撃を加えてから突入するのが定石だろうが、当初は航空攻撃が奇妙に少なく、最近になって増えた。

 ロシア陸軍はソ連解体時に140万人だったが現在28万人(陸上自衛隊の2倍)で、空挺(くうてい)軍4万5千人、海軍歩兵3万5千人を加えても地上兵力は36万人だ。東シベリアと極東700万平方キロを担当する東部軍管区の総人員は8万人(自衛隊の3分の1)にすぎず、一部はウクライナに投入されている。ロシアは徴兵制で1年の兵役を終えた予備兵を名目上200万人持つが、就職している社会人を召集するのは余程の場合で、シリア人などの傭兵(ようへい)で補充中だ。

 ロシア軍はマリウポリを制圧し、東南部の分離派支配地域を確保した後、キーウや西部地域に進撃すれば自軍の死傷者がさらに増大するからもっぱら航空機・ミサイル攻撃でウクライナの都市や工場、運輸施設を破壊し屈服させる戦略に出ている。

 ウクライナ空軍は無きに等しく、携帯対空ミサイル「スティンガー」は射程、射高が4キロ程度で、低空飛行する攻撃機やヘリコプターには有効だが遠距離から空対地ミサイルを発射する爆撃機には対処できない。ウクライナが大型、長射程の対空ミサイルを多数入手できるか否かが戦局を左右する「ミサイル戦争」の様相を呈しつつある。

(編集部・古田真梨子)

※AERA 2022年5月2日号−9日合併号