エリザベス女王が残した“遺言”がまさかの大逆転劇を生んだ。チャールズ3世(74)の妻、カミラ夫人(75)が、女王の鶴の一声で王妃の称号を得たのだ。その背景には、ダイアナ元妃の不幸の元凶とされた彼女の努力と夫の支えがあった。

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「チャールズ皇太子が国王になるとき、カミラ夫人を王妃にしてほしい」

 エリザベス女王が生前語ったこのひと言で、カミラ夫人は女性ロイヤルの最高位に就くことが決まった。ダイアナ元妃がパリで事故死した1997年当時、こんな状況を誰が想像しただろうか。

 国民から「まるでおとぎ話のよう」と称賛されたチャールズ3世とダイアナ元妃の結婚。カミラ夫人はそれを破局に導いた“元凶”として嫌われ続けてきた。不倫が発覚した際、通りすがりの人にパンや卵を投げつけられ、女王からは「性悪女」と吐き捨てられた。

 ダイアナ元妃は「仮面夫婦」のまま結婚生活を続けることを拒否し、女王に「あなたの息子は不倫している」と直談判した。夫フィリップ殿下の浮気の噂に見て見ぬふりを貫いた女王は、元妃にも同じ振る舞いを求めた。チャールズ3世に訴えても「愛人のいない皇太子にはなりたくない」と開き直られ、カミラ夫人に向かい合うと「あなたは世界中の人から愛され、かわいい2人の息子がいる。これ以上何を望むの」と言い返された。元妃は「私はただ夫の愛情がほしいだけ」と答えたが、一笑に付された。「ロットワイラー(一度食いついたら絶対に離さない大型犬)」とは、元妃が夫人に付けたあだ名だ。

 95年、BBCの番組「パノラマ」のインタビューで、ダイアナ元妃は「皆さんの王妃にはなれないが、心の王妃になりたい」と打ち明け、その後わずか2年ほどで36歳の命を散らした。

 チャールズ3世はまもなく再婚を望んだが、国民の反発に配慮した女王が止めに入り、2005年にようやく許可した。さらにダイアナ元妃を追慕する国民感情に慮(おもんぱか)り、夫人を「ウェールズ皇太子妃」と名乗らせずコーンウォール公爵夫人にとどめた。息子が玉座を継ぐときも「王妃」ではなく「国王夫人」と名乗ることも約束した。

 再婚を果たしたチャールズ3世は夫人の「王妃」格上げ作戦を遂行する。

 まずは慈善団体のパトロンに就かせた。母が骨粗鬆症に苦しんだ夫人は、この病気の予防や治療に関心があった。それを知った彼は、英国骨粗鬆症協会の名誉会長に就任させたのだ。ダイアナ元妃の敵をトップに戴くほど協会はおちぶれたのかと国民は非難したが、将来の国王の依頼に反対できるはずもなかった。

 その後、夫人は次々にパトロンの数を増やした。DV被害者支援団体に足を運び、読書会を催し、子どもに絵本を読み聞かせするなど、年間200件ほどの公務をこなす。孤独な高齢者に電話をかけて話し相手になる慈善活動は特に好評だ。

 さらに夫人をロンドン一のセレブ御用達の美容院に通わせ、いくつかのヘアスタイルを試させた結果、日本でいう「聖子ちゃんカット」に落ち着いた。蜂の針を刺すアピセラピーなどあらゆる美顔術を採り入れた。

 カミラ夫人も離婚経験者で、前夫アンドリュー・パーカー・ボウルズ氏との間に2人の子どもと5人の孫がいる。英南西部ウィルトシャーにある夫人の私邸で実子らと過ごすことも許されている。とはいえ夫人は目立つことを注意深く避け、女王と夫の気持ちに沿って暮らした。コロナ禍でロックダウン中は、オンライン会議システムで女王とのたわいないおしゃべりを欠かさず、夫を絶えず褒めて励まし、気持ちを安定させた。

 女王は、チャールズ3世の「王妃」への執念と夫人の地味な努力を評価したのだろう。女王の鶴の一声は、国民にくすぶるダイアナ元妃への愛惜とアンチ・カミラの雰囲気を和らげた。王妃となったカミラ夫人の支持率は60%ほどと倍増した。

 そんな夫人も王室に入った2人の若い女性には困惑した。キャサリン皇太子妃(40)がウィリアム皇太子(40)と婚約したとき、先輩がアドバイスを与えるとしてランチに誘った。そのとき、夫人が発した「ダイアナ元妃のようになってはいけません」という言葉に、キャサリン皇太子妃が激怒した。元妃のファンだったからだ。夫人は「夫より人気が出たり、目立ってはいけません」と続け、「彼女は思ったより頑固よ」とチャールズ3世に報告している。

 ハリー王子(38)がメーガン妃(41)と結婚する前にも、ランチの席を設けて王室の慣習やマナーを教えようとした。しかし、メーガン妃は全く興味を示さず、「わが道を行く」とばかりに夫人を無視した。

 夫人はメーガン妃の妊娠を知ると、「赤ちゃんが赤毛のアフロヘアだったら、さぞ面白いでしょう」と言い放ったとされる。メーガン妃が米テレビ司会者、オプラ・ウィンフリーさんのインタビューを受けた際に、「王室内で人種差別を受けた」と訴えるもとになったといわれる。

 ハリー王子が来年1月10日に発売する回顧録『スペア』では、ロイヤルファミリーすべてがターゲットになる。特にカミラ夫人は「母の敵討ち」とばかりに非難されるだろう。一方、兄のウィリアム皇太子は、妻と子どもたちとの幸せな生活のなかに少年時代の悲しみや苦しみを昇華させた。「カミラ王妃は子どもたちのおばあちゃんではない」と一線を引きつつも、「父親を幸せにしてくれる人」と冷静だ。

 わずか12歳で最愛の母を亡くしたハリー王子は、夫人を無罪放免にはできないでいる。もっとも、夫人は心配していない。夫は今や国王で、何らかの反撃に出るはずだ。それは王子の子どもたちに称号を授与しない、にはとどまらないだろう。

 来年5月6日にはチャールズ3世と共に戴冠する。光り輝く王冠を載せ、バッキンガム宮殿のバルコニーで国民の歓呼の声に応える。ハリー王子の恨み節など、もう届かないはずだ。(ジャーナリスト・多賀幹子)

※週刊朝日  2022年11月25日号