死ぬ前の余命宣告や死んだ後のお葬式やお墓については考えるのに、85%が病院で亡くなっている現代、死に際について選択肢があるとあまり考えられてきていなかった。在宅医療が整いやすい環境ができつつある今、200人以上を看取ってきた日本看取り士会の柴田久美子会長の経験を基にしてフィクションを加えて制作した映画『みとりし』が誕生。

公開を記念して、主演・企画の榎木孝明、新人看取り士役に1,200人のオーディションから選ばれた村上穂乃佳、地元の唯一の病院にやってくる新任医師役の高崎翔太(舞台「おそ松さん on STAGE 〜SIX MEN’S SHOW TIME〜」主演)、余命宣告され、自宅に帰ることを希望する、3人の子供を持つ母親役の櫻井淳子(「ショムニ」)、監督・脚本の白羽弥仁、原案の「日本看取り士会」の会長である柴田久美子が舞台挨拶に登壇した。

企画・主演の榎木孝明は「拍手が大きくてとても嬉しく思います。今日で半分だと思っています。これから多くの方に見ていただいて(映画なので)、今日の想いをぜひ周りの方に伝えてください」、新人看取り士のヒロインを演じた村上穂乃佳さんは、「こうして公開できて、沢山の方に見ていただいて、『あ〜完成したのだ』と実感しています。記憶に残るような映画になってくれたら嬉しいなと思っています。」と挨拶。

脚本と監督を務めた白羽弥仁監督は「有楽町スバル座はロードショーではこの『みとりし』がラストピクチャーだということで、大変光栄に思っています。学生時代自分の映画の学校かのようによく通った映画館なので、こんなに多くのお客さんに来てもらったことを誇りに思っています。」と感慨深げに話した。


この映画の制作は、榎木が十数年前に、当時島根県の離島で看取りの家を運営していた柴田さんにお会いしたことがきっかけ。柴田さんに会って話を聞いて、看取りが現在の日本に必要だと思った理由を聞かれ、榎木は、「私は生まれ育ちが鹿児島の片田舎で、小さい頃は、一つの集落で冠婚葬祭がなされていたんですが、どんどんそれが病院に入ってしまって、本当の生と死の意味を次の世代に伝えていくことが難しくなっていると昔から感じていました。そんな時たまたまお会いしたのが柴田久美子さんで、看取りを実践している方と会って衝撃を受けました。私が考えていたある意味での理想形がそこにあると思ったんです。非常に感銘を受けて、これを全国に広めるための映像作りを約束して、それをやっと果たせました。」と答えた。

原案・企画の、「日本看取り士会」会長である柴田久美子さんは、榎木に出会って十数年経ったこのタイミングで映画化の話を実現させたいと伝えた理由を聞かれ、「この国は2025年問題があります。昨年は136万人の方が旅立たれました。この大きな問題をなんとか微力ながら解決したいという想いを込めました。また、私の癌告知を受けて、この映画に全てを託してみなさんにお届けしたいという願いを込めて、命を懸けて作りました。」と告白。癌は、今年の1月にめでたく克服したとのこと。

看取り士のどのような面について映画化してほしいのか聞かれ、「看取りの尊さです。温かい看取りを描いていただき、安心して、望ましい最期を遂げていただける、命を最後、皆であたたかく包んでいける社会作りができたらという希望を託しました。”すべての人が最期、愛されていると感じて旅立てる世界を作りたい”というのが私たちの夢です。その第一歩がこの映画からまた広がっていくと思っています。」と話した。

白羽監督は、脚本を書く際に柴田さんの人生を3人の役に分けたとのこと。「最初に映画化の話をいただいた時に、柴田さんの人生の本を読みました。幼い頃にお父さんを亡くされ、大企業に勤めてバリバリ働いて、心の病に倒れられたこと。その後看取り士になられたこと。この3つの部分の、若い頃を村上穂乃佳が演じた役、バリバリ働き挫折した部分を榎木孝明さん、その後看取り士になったというのをつみきみほさんが演じていらっしゃいます。この3人が一緒の世界に生きていると構成しました。深刻に暗く描きたくない、死を自然に受け止められるような展開にしたいと思いました。知り合いが亡くなったことがいないという人はないと思います。この映画のエピソードが重なるのではないかと思います。」と説明した。

村上は、そんな脚本を読んで、新人看取り士のみのり役は『絶対に私がやるんだ』という想いでオーディションを受けて、1200人の中から選ばれた。みのりのどういうところに惹かれたか聞かれ、「脚本を読んだ時に、みのりのまっすぐさと強さに惹かれました。母の死を受け入れたくて、死の現場に身を置いて向き合っていくみのりの強さに惹かれました。」と答えました。「脚本を読んだ日の次の日がみのり役のオーディションの日で、目が腫れちゃうので、泣くのを我慢していたんですけれど、最後の櫻井さん演じる家族のシーンでお父さんのセリフを読んだ途端、我慢ができなくなって、涙が溢れてしまいました。オーディションだからともう1回読んだんですが、2回目はずっと泣いていました。」と話した。

榎木と村上は、日本看取り士会の看取り士認定の講座を実際に受けたのこと。榎木は、「看取りは、送る人と逝く人の双方を幸せにすると思っています。講座では、見送る側と、送られる側も体験できるんですね。逝く方の感覚がとても心地よくて、なるほどこういう死に方をすると、いいバトンができるなと実感しました。85%の方が病院死をされるんですけれど、大病院で亡くなると、霊安室に移動して、葬儀屋さんが待っていて、本当の意味の別れがないと思うので、こんなあったかい交流の末に逝けるのなら死も悪くないと思いました。貴重な体験をさせていただきました。」と話した。村上は、「実際に自分が看取られる側だった際、包まれている感じがしました。看取る方もあったかいですが、こちら側もあったかいなと思って、お互い温かいから、自分も最期の時はこうして看取られたいなと心から思いました。看取り士の方は明るくていつも笑顔で、話し方も触れ方もすごく優しくてゆっくりだったので、その雰囲気を大事にしたいと思い、ロケ中も癖付けたくて、ドアもゆっくり閉めたり、お弁当もゆっくりとったり色々気をつけました」と話し、会場から笑いが起きた。

新任の医師役の高崎翔太は、「新人で、死との向き合い方に慣れていない役でした。テストの時から新鮮に新鮮にと気をつけて演じました。」と話した。医師でなく看取り士が題材の映画で医師役を演じるのが難しかったとのこと。「お医者さんは最期まで病気に立ち向かうのが多いです。看取り士さんが看取っているシーンを見ていて、あったかい気持ちになるんですけれど、医者としてそこに引きずられないように気をつけていかないといけない、と思いました」と難しかった理由を語った。

死にまつわるエピソードが続いたが、特に印象に残っているシーンを聞かれ、「最初に看取ったおばあちゃんもそうなんですけれど、櫻井さんが演じた若い方の最期を見届けるのは辛いものがありましたし、死亡確認をするシーンは気を遣うし、緊張しました。死ぬ瞬間って、悲しいという印象だったんですけれど、笑顔で最期を迎えていて、悲しいだけでなく、次に残る人たちの幸せな気持ちが伝わってきて、こういう形もあるよなと思いました。」と述懐した。

櫻井淳子は、3人の子供がいながら、余命宣告された若い母親役。「私も台本を読ませていただいて、素晴らしい台本だったので、泣きまくっていました。それで役に入らせていただいたんですけれど、私は普段健康なんです。風邪もひかなければ、寝込むこともほとんどない自分がどうやって演じたらいいかと思いました。初日が病室のシーンだったんですけれど、セリフを伝えなくてはいけない、でも息遣いは苦しい、と、一生懸命やっていたら、監督に、声が張りすぎだと注意されたことがあったんです。そうだよなと思い直して演じたんですけれど、子供を置いて逝くという辛さ、苦しみを子供の前で見せちゃいけないというのが、自分も子供がいるので、すごくダブってしまって、苦しかったです。やり遂げた感がありました。」話した。

芝居といえど、看取られる役を演じて、看取りについて新たに感じたことを聞かれ、「榎木さんも村上さんも体験したとおっしゃっていて、私の体験と同じだと思ったんですけれど、藤重政孝さん演じる夫がいて、家族がいて、看取り士の方がいて、見守られていて、温かかったんです。演技なんですけれど、みんなのパワーも感じるし、心地よさも感じるし、私自身も最期の時はこうやって看取られたいなと思いました。これをきっかけに看取りというものが浸透したらなと思います。」と話した。

最後に、榎木から「死というのは遠くにあると思われるかもしれないですけれど、表裏一体です。本当に身近にいつもあると思うんですけれど、日本に限らないですけれど、死は苦しくて辛くて悲しいというマイナスイメージが多いと思うんですけれど、死を身近なものとして捉えることで、生をもっと理解できると思います。ですから、遠ざけることなく、本当の意味を知ると、死が怖くなくなるかもしれません。少なくとも生と死の概念を考え直す時代になってきているのではないかと思っています。この映画を見ることで、自分自身の生と死を考えるきっかけにしてもらえればと思います。こんな映画あるよという口コミって大事だと思うので、考えるきっかけを多くの人に与える意味でも、この映画を広めていただけたらと思います」とメッセージが送られ、舞台挨拶は終了した。