実力派女優として映画やドラマに引っ張りだこの伊藤沙莉。一方で、ハリウッド映画『ペット2』や、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』などで個性的な声を活かし、声優業でも高い評価を得ている。そんな彼女が10月2日公開のアニメーション映画『小さなバイキング ビッケ』で、3度目の声の芝居に挑んだ。しかも今回は男の子役。「求められることが大きくなっていると思う」と強い気持ちで役柄に挑んだ伊藤の覚悟に迫る。


■オファーを受けたとき、喜びと不安が入り混じった心境


世界的に有名な名作児童文学をアニメーション映画化した『小さなバイキング ビッケ』。伊藤は、小柄で力は強くないが、勇敢な心と知恵を持つ族長の息子・ビッケに命を吹き込んだ。


「声のお仕事をさせていただくとき、男の子役をいつかやってみたいと思っていたので、こんなにも早くお話をいただけたことに驚きと喜びがありました。と同時に、3度目の声のお仕事だったので、ここでお話をいただくということは、過去の2作でなにかを感じてくださっていたと思うんです。そう考えると、まだまだ声のお仕事への経験もないですし、技量的にもその期待にしっかりと応えることができるのかという不安もありました」と率直な胸の内を明かす。


さまざまな思いが去来するなか、伊藤の背中を押したのが、作品の力。昔から世界中で愛されている児童文学であり、日本にもファンは多い。「母がドンピシャの世代で、子供のころに観ていた作品。このお話を相談したら、すごく喜んでくれたんです」と“挑戦したい”という気持ちが勝った。


■“少年”を演じるポイントは「声の張り」


「不安があった」という伊藤だが、『映像研には手を出すな!』で演じた浅草みどりは、視聴者や原作コミックのファンからも大絶賛されるほど素晴らしい表現力だった。同作の試写会では「声のお芝居は足し算だなと思った」と語っていたが、本作では“少年”という部分がキーポイントだったようだ。

「最初の声出しのリハーサルで音響監督さんに『いまやっている声は少年ではなく青年だね』と言われました。もともと私はそこまで声が高くなく、かすれ気味なので、それで男の子の声が成立すると思ってしまっていたんです。でも今回演じるのはわんぱくで好奇心旺盛な“男の子”なので、声の張りや希望に満ちた感じを表現できるように心がけました」。


■私はキラキラタイプじゃないので(笑)


ビッケは、困難に直面してもアイデアで乗り切るバイタリティがある。子役時代からさまざまな経験をしてきた伊藤にとっても共通点があるのでは――と思われるが「私自身は……どちらかというと立ち向かうというよりは『そういえば、乗り切ってきたな』という感じで、ときの流れに身を任せるタイプかも」と苦笑い。


それでもいまやドラマや映画に引っ張りだこで、唯一無二の女優として、しっかりとした地位を確立している。「私はキラキラしたタイプじゃないですが、与えていただいた役になにか意味があるんじゃないかと思います。例えば……」と言って、2020年11月公開の主演映画『タイトル、拒絶』を例に挙げる。


この作品で伊藤は、デリヘル嬢たちの世話係をするカノウという女性を演じているが「カノウをキラキラした女性がやってしまうと、悲壮感にリアリティがないと思うんです。そういう役を演じさせていただけることはすごくありがたいです。物語に登場するキャラクターには役割があります。もちろん真ん中でお芝居をさせていただける役にも意味がありますし、めちゃめちゃ端っこの役にも絶対に意味があります。そういう思いでいると、巡り合えた役は大切にしたいと思えるんです」。

ときの流れに身を任せる=巡り合った役に全力投球することを繰り返していく。もしかすると最強の生き方なのかもしれない。


■コロナ禍で新しい自分を発見「自由っていいな」


新型コロナウイルス感染拡大により、多くのエンターテインメントが一時停止した。

伊藤はコロナ騒ぎになる直前に、地元から東京に出てきたという。「いままで一人暮らしをしても、なんだかんだで実家に頻繁に帰ったりして、親から1か月以上離れて暮らしたことがなかったんです。私自身も家族と居る方がすごく楽だと思っていたので」。

しかしコロナ禍で、一人でいる時間が長くなると「自分が思ったときにできるのってすごく自由でいいなと感じたんです」と新しい発見があった。さらに自身の過去作も観返すことができた。「これまであまり自分の出演した作品を観る時間がなかったのですが、しっかりと観ることができました。お芝居に対しての観方も変わりましたし、もうちょっとこうした方がよかったなという部分も見つかりました」。


まだまだ先が見えない状況だが「この作品はとても映像と音がきれいな作品。大海原でビッケが夢を持って冒険に出る姿は、すごく開放感があり、大きなスクリーンで楽しんでもらいたいです」と映画館での鑑賞を推奨すると「学校では教わらないこともたくさん学べるので、子供たちはもちろんですが、大人も忘れてしまった情熱を思い出すことができる映画です」と見どころを語ってくれた。


取材・文:磯部正和

カメラ:友野雄(Yu Tomono)


ヘアメイク:AIKO 

スタイリスト:吉田あかね 


衣装クレジット ※すべて税抜き価格

ワンピース/¥64,000 furuta 〈問い合わせ先〉https://www.furuta-official.com/

イヤリング/¥14,500 STRI 〈問い合わせ先〉http://www.stri3.com


『小さなバイキング ビッケ』

10月2日(金)EJアニメシアター新宿他にて全国公開