幸せのカタチ=“スーパーリッチ”を追い求めるキャリアウーマン・衛(江口のりこ)の半生を描く『SUPER RICH』。第8話は、そのメッセージがわかりやすく打ち出された回だった。


※以下第8話一部ネタバレあり

「やりたくないことはやらん」「私なんかって言わない」など、『SUPER RICH』ではこれまでも幸せに辿り着くための小さなメッセージを積み重ねてきた。そのひとつの到達地点となったのが、今回の衛(江口のりこ)と今吉(中村ゆり)のシーンだった。


悪意ある投稿によってアウティングをされた今吉。このまま自分が会社にいたら迷惑をかけると、今吉は退職を申し出る。そんな今吉に、衛はきっぱりとこう告げる。こんなことでなくなる取引も、貸してくれるオフィスもどうでもいいと。


「わたしらは会社の話も仕事の話もしてない。人間の、大事な友達のあなたの心の話をしてるんや」


そこからの台詞がグッと来た。


「今吉、なんでもないって顔をするな。自分のせいとか言うな。自分のことを悪く言わんといて。私らがこんなに必要やって言ってる素晴らしい人間なんやから、今吉は。あのな、嫌なときは嫌って言っていいし、怒りたいときは怒っていい。泣いてもいい。我慢するな、今吉。今吉、今、なんにも悪いことしてないのに暴力ふるわれたんやで」


私たちの日常にはたくさんの暴力がひそんでいる。それは、殴る蹴るの身体的暴力のみに限らない。心ない言葉を浴びせかけられること。理不尽な誹(そし)りや差別を受けること。労働力を不当な安値で搾取されること。敬意を払われないこと。どれも人としての尊厳を踏みにじる、心の暴力だ。


だけど、こうした暴力に対して、私たちはつい“スルー”することがいちばんいいのだと思い込まされている。愛想笑いで受け流し、ジョークで笑いの種に変え、あるいはそっと沈黙する。それが、大人の立ち居振る舞いなのだと知らず知らずのうちに植え込まれていた。


でも、私たちは知っている。そうやって“スルー”するたびに、心がどんどん死んでいくことを。正しい手当を受けずに放置された傷口はやがて膿み、何も感じなくなる。だけど、受けた痛みはどんどん蓄積し、耐えきれなくなった瞬間に決壊する。そのとき、初めて気づくのだ。自分がひどい暴力被害を受けてきたことに。そして、“スルー”することで、自分自身もまた自分に暴力を振るっていたことに。


もうそういうのはやめよう。スルースキルなんて身につけなくていい。私たちは暴力に対し、きちんと怒りを表明するべきなんだと、『SUPER RICH』は伝える。自分の痛みをスルーすることは、自分の幸せもまたスルーすることなんだと気づかせてくれた。


このときの江口のりこの芝居がすごく良かった。江口のりこの台詞は、率直だ。媚びもなければ、衒(てら)いもない。すぱーんっと人の心を射抜く爽快さがある。それでいて、あの小気味のいい関西弁に親しみが湧く。このドラマにはカッコいい男性がたくさん登場するけれど、いちばんカッコいいという形容詞が似合うのは、江口のりこなんじゃないかと思わせる魅力的な俳優だ。

そして、このシーンの古田新太の存在感がすごい。台詞はない。なんなら表情もほとんど映らない。背中が何度か切り取られるだけ。でも、ちゃんと仲間を想う気持ちが伝わってくる。年長者として、他の人たちよりいくぶんか人生の酸いも甘いも知り尽くしている。そういう人だけが持つ滋味のようなものが背中から放たれていた。古田新太の佇まいがすごいし、そこを漏らさず切り取った監督の手腕も、影のMVPだ。


また、優(赤楚衛二)の「俺の方が遅く生まれてきたのは、衛さんをひとりにしないためなんですよ、きっと」という台詞も、年の差恋愛を描いたドラマとして胸を打つものだったと思う。ちょっと図々しいところもあるけれど、こういうことを言えちゃう屈託のなさが、優のチャームポイントなんだろう。

このシーンでは、2話で衛と優が一緒にそうめんを食べたときに言った「食べるラー油とかあったら、それも入れるとおいしいんですよ」という台詞もさらっと回収されていた。つまり季節が一巡して(正確に言うと、優は1年間留学して不在の時期があるので、おそらく二巡)、初めて過ごした夏と同じ夏がまたやってきたということの暗示でもある。


このドラマでは衛と優が一緒に食事をとるシーンが多く登場するが、食を共にするということは生活を共にすること。着実に2人の間に歳月は積み重なっているのだと、あの食べるラー油が象徴していた。

正直に言うと、優が深い意味もなく強盗に巻き込まれて刺されたり、碇(古田新太)に恨みを抱いた漫画家がなぜ碇ではなく今吉を標的にし、わずか1日の間にごく私的な写真を入手できたのかが腑に落ちなかったり、没入感を妨げるノイズが本作はやや多い。展開が早いため取りこぼされている繊細な関係描写がもっとあると、視聴者も衛と優の過ごす日々に愛着を持てるし、2人に感情移入できるはず。


と思ったら、また時間が一気に飛んでいた。今度は1年4ヶ月後。優がすっかり冷酷無比な男に変貌していた。この背景はまた第3章で描かれることになるのだろう。展開は急でも、描写は丁寧に。そうすれば、キャストの好演との相乗効果で、より魅力的なドラマになると思う。



文:横川良明


【第9話あらすじ】

氷河衛(江口のりこ)の献身的な補助で、強盗に刺されて傷ついた春野優(赤楚衛二)は回復。そして2人は桜(美保純)と良次(上島竜兵)を証人に、晴れて婚姻届を提出した。また、今吉零子(中村ゆり)、鮫島彩(菅野莉央)を引き留めた『スリースターブックス』は以前入っていたオフィスビルへと移転し、1年後には株式上場を考慮するまでに成長する。


そんなある日の役員会議で、衛は自身の勤務形態をリモートに変えたいと言う。出産育児を経験している鮫島から、リモートワークの課題を指摘された衛は、経験のために自分で運用してみたいというのだ。田中リリカ(志田未来)は衛のリモートワークを懸念し、宮村空(町田啓太)に相談を持ちかける。会社のナンバー1の衛がリモートを続けるなら、明確なナンバー2を据えるべきだと言う。


その夜、優に真子(茅島みずき)から急な連絡が入る。それは、優の実家に関わる重大な出来事で…。


■木曜劇場『SUPER RICH』

毎週木曜よる10時放送

出演者:

江口のりこ、赤楚衛二、町田啓太、菅野莉央、板垣瑞生、嘉島 陸、野々村はなの、茅島みずき、矢本悠馬、志田未来、中村ゆり、戸次重幸、美保 純、古田新太、松嶋菜々子

主題歌:『ベテルギウス』優里(ソニー・ミュージックレーベルズ)

(C)フジテレビ