数々の漫画賞を受賞した鶴谷香央理の漫画『メタモルフォーゼの縁側』の実写化が決定し、6月17日(金)に全国公開される。このたび、原作漫画家、鶴谷香央理の独占インタビューが到着した。



2017年に連載が始まって以降、じわじわと話題を呼び「このマンガがすごい!」「文化庁メディア芸術祭 マンガ部門」など数々の漫画賞を受賞した鶴谷香央理の漫画『メタモルフォーゼの縁側』。


主人公の佐山うららは、周囲に馴染めずひとりこっそりとBL漫画を読むことを毎日の楽しみにしている17歳の女子高生。もうひとりの主人公・市野井雪は、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人。雪がキレイな表紙に惹かれて買った漫画がBLだったことをきっかけに出会ったふたりが、一緒に漫画を読んで、一緒に笑って、一緒に泣いて、時には激論を交わし、BLで繋がったふたりが育む年の差58歳の友情と挑戦が描かれる。


うららを演じるのは芦田愛菜。2010年に『Mother』(NTV)で脚光をあび、以降俳優として数々の最年少記録を塗り替え、数々の映画、ドラマ、CMなどで活躍する国民的俳優。雪を演じるのは日本を代表する名優・宮本信子。数々の映画賞に輝いた経歴を持ち、近年では『STAND BY ME ドラえもん 2』(声の出演)、『キネマの神様』など精力的に活動している。



このたび、本作の原作漫画『メタモルフォーゼの縁側』の作者・鶴谷香央理のオフィシャルインタビューが到着した。

鶴谷香央理は2007年に『おおきな台所』でデビューすると第52回ちばてつや賞準大賞を受賞し、初めての単行本となった『メタモルフォーゼの縁側』では2019年の「このマンガがすごい!」オンナ編一位を獲得し、同年の第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門では新人賞を受賞するなど自身の作品とともに話題を集めている。今回映画化となった感想や印象に残ったシーンなど映画にまつわる話から、漫画『メタモルフォーゼの縁側』の裏話までたっぷりと語ってもらった。



●女子高生×おばあちゃん×BLというテーマの着想はどこから?
BL好きな人のお話を描きたいとずっと思っていてネタを考えていたんですが、編集担当さんとの打ち合わせの中で、「そこにおばあさんが絡むのは新しいのではないか」というアイディアをいただいて。そこから女子高生とおばあちゃんの友情モノみたいなアイディアがどんどん広がっていきました。もともとBLは私自身が好きなんですが、以前はうららさんと一緒でちょっと恥ずかしいという気持ちがあって。そういう自分の楽しみを素直に言えない気持ちっていうのは、漫画になるなと思っていたんです。うららさんは、そのままとは言いませんが引っ込み思案だった高校生の頃の自分がモデルです。雪さんに関しては私が自分の祖母とすごく仲良しだったので、祖母のことを思い出すと素直に描けました。祖母は戦争を経験している世代なのでいろいろ大変なこともあったとは思いますが、そのぶん中高年ではじけていたようなところがあるのか、かなり破天荒で多趣味な人でした。75歳でBLにはまるという設定も、今の70代ならオタク文化に親しみを覚える人もいるんじゃないかという印象だったのであまり違和感はありませんでしたね。恋愛漫画を読んでときめきを感じる中高年の女性の気持ちの延長線上のような感じで、きっと(BLを)受けいれがたいってことはなさそうだなと。BLも女性が読むように作られているジャンルなので、受け入れやすさはあるのかなと思います。うららさんと雪さんを真逆のキャラクターにしようというのは、最初から思っていたことです。


●特に印象に残っているエピソードや、苦労したエピソードは?
やっぱり苦労したのは終わり方です。長い連載をするのが初めてだったので、どう決着をつけるのかっていうのは悩みました。特に大きい目的やドラマチックなメッセージがある漫画ではないし、うららさんも雪さんも地味な人たちなので(笑)。でも2人にとって「今の自分はこれでいい」と納得できるような終わり方にしようという風には考えました。物語的には2人が別れるというのは、最初から決めていました。1度友情を結んだ人とは距離が離れても変わらない、というのは描きたかった部分です。距離ができるのは寂しいことですが、それでも大丈夫って思えるような。涙涙の別れのシーンをあえて描かなかったのも、自分の実感からです。本当に仲良くなった人とそういう別れ方をするのは、あまり自然じゃない気がして。映画でも同じように描いてくれていて、嬉しかったですね。好きなエピソードはコメダ先生のサイン会のエピソードです。うららさんが自分の漫画をコメダ先生に読んでもらったことを知らないまま、その話をせずにサイン会が終わってしまうっていうのは、願いは“わかりやすく叶わない”ってことを描きたかった。例えばなりたかった漫画家になるとか、憧れの先生としゃべるとか。そういうのがなくても気持ちが満足したり、納得するってことを描いてみたかったんですけど、まさか映画でもそのまんまやってくださるとは思わなくて感動しました。


●映画化のお話が来た時は率直にどのように思われましたか。
もちろん嬉しくて「やった〜!」と思いましたが、お話をいただいた当時はまだ2巻までしか出ていなかったんです。このとても地味で何が起こるというわけでもない漫画を、どうやって約2時間という映画にするんだろう?とは思いました(笑)。でも河野プロデューサーと脚本の岡田さんのお名前を聞いて、きっと大丈夫だろうと安心したのは覚えています。当然ですが漫画と映画は作り方も伝わり方も全然違うものなので、脚本を読んだだけでは想像がつかなった部分もあり、そこはとても新鮮に感じました。


●芦田愛菜さん、宮本信子さんの印象も教えてください。

芦田さんと宮本さんに関しては、とにかくお芝居が上手な方という印象があって、こんな上手なお2人にやっていただけるなら安心だなと思いました。芦田さんと漫画のうららさんはイメージが全然違う感じもしたんですが、完成作を拝見して芦田さんがちゃんとうららさんになられていて、俳優さんって本当にすごいなと。もちろん漫画のうららさんと映画のうららさんはまた別のキャラクターではあるんですが、“心の中がいつも忙しい人”であることにはどちらも変わりなく、その感じをすごくよく表現してくださっていて嬉しかったです。宮本さんは“夏ばっぱ”(「あまちゃん」)のイメージがすごく強かったんですが、同じおばあちゃん役でもガラッと変わっていてやっぱりすごいなと。原作よりもさらにおばあちゃんっぽい雪さんにしてくださっていましたが、それは映画の脚本にマッチした役作りをされたんだろうなと思いました。お2人がカフェでキャッキャッしている姿はとてもかわいらしかったです。


●他のキャスト陣の印象もお聞かせください。
紡役の高橋恭平さんは、こんなキラキラした人が紡で大丈夫かな!?とハラハラしました(笑)。恋愛ではなく(うららの)男友達を描きたくて書いたキャラクターだったんですが、とても自然に幼馴染を演じてくださったと思います。コメダ先生は漫画よりかなり若い設定でしたが、古川琴音さんが本当に素敵で!当たり前ですがお芝居も上手だし、あこがれの対象である人も同じ悩みを持っているんだと伝わってきました。沼田さんは漫画とは全然違うし、むしろ新しいキャラクターになっていましたが、映画としてすごく効果的なキャラになっていたと思います。何より光石研さんが素敵でした(笑)。雪さんを連れて車でコミティアに向かうのに途中でエンストしてしまうシーンは、とても動きがあっていいシーンだなと思いました。



●映画ならではのシーンだなと思うところはどこでしたか?
うららさんの心が強く動いた時、思わず走り出すシーンが映画の中で何回も出てきてとても印象に残りました。走るという動きで表現するのは、映画ならではだなと思います。漫画ならモノローグで心の中を説明できるところを、映画では撮り方や演出で補っていただいてすごくかっこいいなと思いながら見ていました。特に好きなのは、サイン会に走って向かうシーン。うららさんの気持ちが伝わってきてグッときましたし、ジュンク堂の交差点を頭上から撮っているカメラアングルもかっこよかったです。芦田さんの走り方も全体的にいつも前のめりで、すごくうららさんっぽいなと思いました。サイン会のシーンもすごくよかったです。雪さんとコメダ先生が話していて、一瞬縁側のシーンが映るところは感動してしまいました。縁側自体の作りももちろん素敵だったんですが、雪さんの家の中もすごくリアルでしたね。雪さんが断捨離をするシーンの物置みたいな部屋は、私の祖母の部屋も生きてきたぶんくらいのモノがあふれていたなと懐かしくなりました。モノがごちゃごちゃと置いてある部屋に、光がさして埃がキラキラ舞っているあの感じは、「え?私の実家?」と錯覚してしまうくらいのリアリティでした。他にもいつも何かお菓子を食べている雪さんとか、赤い傘の内側が花柄だったりとか……。本当に原作に忠実に、大事にしてくれているのが伝わりましたが、あえてモノローグを入れずに描いてくれていることに「よくぞ映画でやってくれました」という気持ちでいっぱいになりました。あと、うららさんのお母さんがうららと会話がかみ合わないまま、ずっとひとりでしゃべっている姿もかわいらしかったです(笑)。


●うらら&雪が歌うエンディング曲はいかがでしたか。
めちゃくちゃ素敵でした!お2人の歌い方の特徴が全然違っていて、それが役とオーバーラップするんですよね。芦田さんははじけるような歌い方で、宮本さんはこぶしがきいているというかすごく練られた歌い方。お2人ともとても上手で、あの掛け合いはずっと聴いていたくなりました。


●人気BL作家=じゃのめ先生が本作に参加されたことについてはいかがでしたか。
感謝しかありません!じゃのめ先生にお願いできて心の底からよかったと思っています。最初に河野プロデューサーから『君のことだけ見ていたい』の作画をお願いされたんですが、あれはBL特有の美しい絵が描ける人にお願いしたいです!と言わせてもらって。私も漫画の中の作中作という意味では絵柄の違いを出すことはできるんですが、やっぱり映画になって【実写対絵】となると、私の絵ではBLの良さは表現できないと思ったんです。今回はBLの絵の綺麗さに焦点が当たる話なので。じゃのめ先生はものすごい人気作家さんなので、普通だったら絶対にスケジュールが空いているはずがないんですが、たまたま空いてらっしゃったとかで……。しかも原作も読んでくださっていたと聞いて感動しました。映画を見るとキャラクターの感情が伝わってくるとっても美しい絵でさらに感動しましたが、作業量がすごかっただろうなとも思います。かなりの枚数を描いてくださっていて見応えがありました。原作ではちょっとしか描いてない部分も、じゃのめ先生が広げて作中作になるべく寄せて描いてくださっているんですよね。だから私自身が読んでいない『君のことだけ見ていたい』も出てきて、「やった!」と思いました(笑)。役得でしたね!じゃのめ先生とは面識はないんですが、(SNSで)相互フォローはしていたので、この映画を機にDMでご連絡を取り合わせてもらいました。それまで本当にただの1読者だったので、嬉しかったです。


●うららが雪に薦めるBL作品は鶴谷先生が選ばれたそうですが、コンセプトは?
実際にある作品から、うららさんが好きそうな作品を選びました。それはイコール私が好きな作品です。ちょっとあたたかみのある作品だったり、相手を優しく思いやるようなお話を中心に選びました。うららさんが雪さんに薦めそうなものだなというイメージですね。ただBLはどうしても官能的なシーンが入ってくるし、そういうシーンがないものを選ぶ方が不自然なんです。でも75歳の雪さんは、そんなことくらいでビックリしないだろうなとも思います(笑)。


●完成作をご覧になった感想と、これから映画をご覧になる方へメッセージを。
映画になるともう少し派手な展開になったりするのかな?と思っていたのですが、うららさんも雪さんも原作のままでした。何か世の中に大きな影響を与える人たちでもなく、外側から見たら何も起こっていないような2人。でも心の中にはそれぞれに持っているものがある。それをそのまま映画にしてくれていて私はとても感動しましたし、映画としてはチャレンジングなことをされたんだなというのも伝わりました。うららさんと雪さんが見たであろういろんな景色がとても精度高く再現されていることも嬉しく、原作が好きな方には是非見ていただきたいです。あとは2人が漫画とはまた違う形ですごくがんばっているなって。ワタワタしながらも2人なりにがんばっている姿を、たくさんの人に見てもらいたいと思いました。本来映画の主役になることはないようなキャラクターの2人が、世界の隅っこで「これやってみる?あれやってみる?」とキャッキャッと盛り上がっている姿を、こんなに拡大して見られる映画は他にないと思います!


<物語>
17歳の女子高生と75歳の老婦人。二人をつないだのはボーイズ・ラブ。
年の差58歳。最初の青春、最後の青春。
うらら、17歳。毎晩こっそりBL漫画を楽しむ女子高生。
雪、75歳。夫に先立たれたひとり暮らしの老婦人。
ある日、ふたりは同じ本屋にいた。うららはレジでバイト。
雪はきれいな表紙に惹かれて漫画を手にとっていた。それがBLだった。
初めての世界に驚きつつも、男子たちが繰り広げる恋物語にすっかり魅了されてしまう雪。
そんなふたりがBLコーナーで出会ったとき、それぞれ閉じ込めていたBL愛が次から次へと湧き出した。
それからは雪の家の縁側にあつまり、読んでは語りを繰り返すことに。そして二人はある挑戦を決意する。




■『メタモルフォーゼの縁側』
6月17日(金)全国公開
【出演】
芦田愛菜 宮本信子 高橋恭平(なにわ男子) 古川琴音 生田智子 光石研
汐谷友希 伊東妙子 菊池和澄 大岡周太朗 
【原作】鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』(KADOKAWA)
【配給】日活

©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

原作書影・コマイラスト:(C) 2018 Kaori Tsurutani/KADOKAWA