10年前のリーマン・ショック以降、世界的に金融緩和を続けたことで、今や世界の金融資産総額はGDP(国内総生産)の約4倍にまで膨らんだ。これはリーマン・ショック前と同水準であり、再び金融ショックが起きる臨界点に迫っていると見ることもできる。

 2月の株価の乱高下は、米国の長期金利(10年物国債利回り)が上昇したことが引き金になった。米長期金利の上昇により、新興国から米国への資金の巻き戻しが始まり、新興国経済が打撃を受け、それが先進国経済にも波及して、世界経済の減速につながる。そして、米国の企業業績にも影を落とすという市場判断だろう。

 2017年の世界同時好況は、米長期金利が比較的安定推移していたことが最も大きな要因だ。17年の世界経済の成長率は3・7%だった一方、ダウ工業株30種平均や日経平均株価は1年間で約20%も跳ね上がっている。これは「根拠なき熱狂」と言える。

 米国株が上昇した理由の一つには、トランプ政権の経済政策が、金融規制改革法(ドッド・フランク法、10年成立)の見直しなど、ウォール街が拍手を送るような政策に舵(かじ)を切っていることがある。人事面でも、FRB(米連邦準備制度理事会)の新議長に投資ファンドの共同経営者を務めていたパウエル氏を指名するなど、金融規制緩和を進める布陣を敷いている。また、「戦争経済への予兆」も理由として挙げられる。戦争は間違いなく不幸な消耗だが、需要の拡大につながることも否定できない。

 ◇FAGA+M

 そしてもう一つ、今やIoT(あらゆるモノのインターネット化)という言葉に象徴されるデジタル・エコノミーが世界経済の潮流だが、その実体は「デジタル専制」に近づきつつある。フェイスブック、アップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフトのITビッグ5は「FAGA+M」と呼ばれ、その株式時価総額は約3・4兆ドル(約360兆円)。日本トップのトヨタ自動車が約24兆円なので、桁が違う。

 この状況は、必ずしもこれらの企業のIT技術が卓越しているからというだけで起こっているのではない。ファンドが主導してどんどん金が入る仕組み、いわゆる「ITとFT(金融技術)の結婚」によって、株価が跳ね上がっているのだ。

 さらに特異なのが、日本の株価だ。米国の株価上昇に引っ張られているという要素に加え、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式購入分と、日銀の上場投資信託(ETF)買い上げを合わせた約60兆円にも上る公的資金が株価を上げている。公的資金投入がなくなれば、間違いなく今の日経平均は1万6000円台程度にまで下がるだろう。

 安倍晋三政権にとっては、株価と内閣支持率が連動している状況のため、公的資金の投入をやめられない。中央銀行は本来、政治の意図とは独立し、物価や景気の番人としてバランス感覚を保たないといけないが、今の日銀は政治の思惑を忖度(そんたく)して動く構造になってしまった。

 日本の金融政策は政治の縛りで動けないと見て、外国人投資家の短期資金が流入している。公的資金と金融政策のゆがみを期待して入ってきた外資、つまり日本の技術力や経営を評価しているわけではない「売り抜く資本主義の投資」によって、株価が支えられてしまっている。

 そのような危うい構造の中で、ピンが一つでも外れれば、この株高は一気に崩れるだろう。年始からの仮想通貨の乱高下が示すように、行き場のないカネがゆがんで動くことによって、危うい構造が際立ち、日本発で世界金融危機が起こる可能性がある。

寺島実郎(日本総合研究所会長)
てらしま・じつろう◇1947年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産に入社し、米国三井物産ワシントン事務所長、常務執行役員などを歴任。現在は多摩大学学長も務める。