中川美帆(パンダジャーナリスト)

 日中国交正常化を記念して、1972年10月28日に中国から贈られたカンカンとランラン。当時、上野動物園周辺は2頭を見たい人たちであふれ、2キロに及ぶ行列ができた。やっと2頭の前にたどり着いても、人波にのまれて、立ち止まれない。対面は「あっという間に終わった」と、子ども時代に訪れた男性(本誌編集長、当時8歳)は振り返る。

 そんなカンカンとランランの剥製(はくせい)を見られるのが、東京西部に位置する多摩動物公園だ。同園では2体をガラスケースに入れて、湿度を管理している。

 剥製にする際は、動物の体を切って内臓を取り出す必要がある。「カンカン、ランランの剥製は、体のどこを切ったか分からないくらい、よくできている」。飼育員を42年間務め、現在は多摩動物公園の「どうぶつ相談コーナー」で相談員をしている島原直樹さんは、こう指摘する。相談コーナーのすぐ近くにある2頭の剥製を毎日見ている島原さんは、「剥製と対面した人の中には『パンダが今にも動き出しそう』と驚く人もいる」と話す。

 ◇全国に剥製を貸し出し

 ランランが尿毒症で死亡したのは、40年近く前の79年9月4日。訃報が伝わると、全国からお悔やみの言葉や花が寄せられ、生前の姿をとどめておきたいとの願いから、剥製にすることに。都内にある老舗の剥製会社、尼ヶ崎剥製標本社が手がけた。

 ランランの剥製は、80年6月17日から多摩動物公園で展示している。同園は上野動物園と同じく都立。なぜ上野でなく多摩なのかというと、上野には生きたパンダがいることや、多摩地域でのサービス向上になるといった理由からだ。

 カンカンは80年6月30日に心不全で死んだ。剥製は81年1月27日〜3月1日に上野動物園で展示して、同年3月3日から多摩動物公園で展示している。2頭の展示の終了時期は決まっていない。

 2頭の剥製には、全国の動物園や博物館から貸し出し要請が殺到。80年代の多摩動物公園の担当者は、貸し出しの日程調整に追われた。現在も貸し出しは続いており、近年では島根県立三瓶自然館へ15年6月1日〜10月25日、三重県総合博物館へ17年3月22日〜6月30日に貸し出している。

 多摩動物公園はもちろん、地方でも2頭の姿を目にする機会があるかもしれない。

*週刊エコノミスト5月1・8日合併号「パンダ大百科」