── 業績は安定してますが、売上高は伸び悩んでいる印象です。5月の経営戦略発表では「もう一段高いレベルの成長」を強調しました。

杉山 三菱電機は売り上げや利益の規模を大きく伸ばすことを掲げるのではなく、健全に成長することを志向してきました。DRAMに大規模投資した半導体事業で1996年度と97年度の2年間で合計1500億円の赤字を出しました。その反省から、98年に社長に就任した谷口一郎さんがバランス経営を提唱しました。成長性だけではなくて会社の身の丈、健全性を念頭に置くものです。この20年間方針に変わりはありません。東京五輪が開催される2020年度に当社は創立100周年を迎えるので、それを機にもっと強く、大きくなろうというメッセージを込めました。

── 人工衛星から製造ライン制御機器、家電と事業領域が幅広いですが、三菱電機を牽引(けんいん)する事業とは。

杉山 例えば電力関連です。11年3月の東日本大震災を契機に、国内の原発が止まりエネルギーは依然として厳しい状況です。今年9月の北海道での大規模停電で露呈したように、日本の電力供給は脆弱(ぜいじゃく)です。新設の発電所向けの発電機をたくさん作るよりも、太陽光や風力など不安定な電源を既存の火力や水力発電と共存させることが課題です。送配電網の安定化や、地域ごとにエネルギーを柔軟に融通するために必要な機器の供給で当社はお役に立つことができると思います。

── 製造ラインを自動制御する「ファクトリー・オートメーション(FA)」も中核事業です。

杉山 先進国を中心に高齢化によって労働人口が減り、工場でのもの作りは省人化が避けられません。IoT(さまざまなものをインターネットにつなぐ仕組み)を駆使して製造ラインをより賢くするシステムの提案に当社が果たすべき役割があります。FA機器の需要は、昨年、スマートフォンの製造現場からの注文が牽引した後、現在は一服感がありますが世界的に工場を高度化する動きがあります。中長期的には必ず伸びる市場です。

── 自動車分野にも注力しています。自動運転や電動化で、三菱電機の強みはどこにありますか。

杉山 当社は自動車機器を自動車メーカーに納めてきました。例えば、エンジン駆動で生じた回転エネルギーを電気エネルギーに変換する「オルタネーター」や、ハイブリッド車に搭載されているモーターを制御する「インバーター」などです。実績を重ねた当社は、自動車メーカーの考え方をよく知っています。自動運転のシステム設計に米国などのIT企業が参入していますが、当社には一日の長があると考えています。

衛星で高精度の位置情報

── ほかに三菱電機のすごみを感じさせるような技術とは。

杉山 当社が製造した測位用衛星「みちびき」があります。衛星から、静止体の位置を水平方向6センチ、垂直方向12センチの精度で位置を確認することができます。GPS(全地球測位システム)だと位置確認の精度はメートル単位までなので、衛星から車の位置の確認をする場合、1車線分ずれてしまうことだってあります。11月からはみちびきからの位置情報サービスが始まり、将来は自動運転への活用が期待されています。当社はこの衛星から降りてくる情報をどう利用するのかについて詳しく知る立場にいます。自動運転支援システムを構築する上で、当社は有利なポジションにいます。

── 一方、家電分野では10年前に洗濯機から撤退するなど縮小路線です。今後の方向性はどうですか。

杉山 重要視しているのは、他の事業との相乗効果です。テレビなどで培った映像処理のソフトウエア技術は、屋外施設に設置される大型の映像装置に応用されています。例えば、甲子園球場や札幌ドーム、西武ドームなどに入っている「オーロラビジョン」をはじめ、日本にある屋外施設の大型モニターの多くは当社が製造したものです。映像機器の中でテレビは最も変化が激しい市場なので、さまざまな技術を習得できる機会があり、他の製品に応用できるメリットがあります。

── エアコンはAI(人工知能)を取り入れた新製品も出しました。

杉山 おかげさまで好調です。人がいる位置を、赤外線センサーで感知したり、AIを駆使し、室外の気温が上がると、時間差を伴って室内の温度も上昇することを事前に予想して、冷風の温度を下げる機能を加えています。室温の下がりすぎを抑制する機能も業界で先駆けて搭載しています。当社の「霧ヶ峰」は、エアコンとしては最長寿ブランドとしてギネスブックに登録されています。

── 株価(9月18日の終値1488円)は株価収益率(同12倍弱)からみて割安です。M&A(合併・買収)に消極的で堅実的すぎるとの評判も背景にあるのでは。

杉山 株価は低くも高くもなく、それなりに評価を得ていると思います。5月に欧州の機関投資家を回って感じたことは、三菱電機の株に投資をするのは、急激な成長ではなく堅実さを評価してもらっているということです。大型のM&Aは外からみて面白いのでしょうが、相乗効果が出る必要な案件は実行します。

聞き手=藤枝克治(本誌編集長)、構成=浜田健太郎(編集部)
 
横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 猛烈社員のエンジニアでした。東京電力が運行していた電気自動車用の交流モーターを作ったのは達成感のある仕事でした。

Q 「私を変えた本」は

A 洪自誠による『菜根譚』という中国・明代の哲学書です。真心を込めれば不可能が可能になるとの「人心一真」という一文が座右の銘です。

Q 休日の過ごし方

A 土曜はだいたいお客様やお取引先とゴルフです。日曜はジムによく行きますし、妻とは歌舞伎やミュージカルなど観劇も多いです。

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 ■人物略歴

すぎやま・たけし
 1956年生まれ 岐阜県立岐阜高校、名古屋大学工学部卒。79年三菱電機入社、2014年常務執行役、専務執行役、副社長を経て18年4月から現職。岐阜県出身。61歳。

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事業内容:総合電機メーカー

本社所在地:東京都千代田区

設立:1921年1月15日

資本金:1758億2000万円

従業員数:14万2340人(2018年3月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

売上高:4兆4311億円

営業利益:3186億円