田代秀敏(シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)

 トランプ米大統領は12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれたG20(主要20カ国)首脳会議に合わせて開かれた中国の習近平国家主席との首脳会談で、過熱する米中の貿易戦争を「90日間の一時休戦」と銘打ち、引き分けに持ち込んだことをアピールした。

 だが、今回の「90日間」の文言は飾りである。2019年3月1日までの90日の間、米国では12月にクリスマス、中国では2月に春節の長期休暇がある。

「貿易戦争、上等だ。簡単に勝てる」──。トランプ米大統領は3月1日にこうツイートし、世界に「宣戦布告」。メキシコ、カナダ相手には勝利を収めた。

 ところが、中国との間では関税引き上げ合戦に加え、中国企業が米国産原油・大豆を輸入停止したために、原油・大豆相場が急落。世界最大の中国自動車市場で米国車の販売が落ち込み、ゼネラル・モーターズ(GM)は北米5工場を閉鎖し、1万4000人超を解雇する計画を発表した。

 米国は、南シナ海の領有権をめぐる問題も、中国政府が補助金によりハイテク産業を育成する「中国製造2025」も話題にさえできなかった屈辱からか、ホワイトハウスの公式サイトには会談の写真は掲載されていない。

 ようやく会談翌々日の12月3日、トランプ氏は首脳会談についてツイッターに5連続で投稿したが、いつもの罵倒は鳴りを潜めた。

 まず、「中国が米国からの自動車輸入への40%の報復関税の引き下げ・撤廃に合意した」とツイートした。これを真っ先に取り上げたのは、日米合計を超える世界最大の中国の自動車市場で、米系メーカーの販売台数が1〜10月に前年より約14%減少したからだ。

 続けて、中国が米国から農産物をただちに購入し、米国の農業者は大きな利益を迅速に得るとツイート。同じ3日、ムニューシン米財務長官は、中国側から1兆2000億ドル(約136兆円)の米国産農産物の購入が追加提案されたと述べた。これが実施されれば、米国の農業は中国市場に依存することになる。

 最後のツイートでは、習主席と自分は将来、ロシアのプーチン大統領とともに、制御不能な軍拡競争の停止を討議すると述べ、「米国の軍事費は今年7160億ドル(約81兆円)。クレージーだ!」とほえた。

 一連のツイートからは、米中の「覇権争い」も「新冷戦」も見えてこない。

 米国側は会談で、中国側を刺激しないように腐心した。中国で宣伝動画が炎上した伊ブランド、ドルチェ&ガッバーナ(D&G)は、メラニア・トランプ大統領夫人の御用達である。炎上後もメラニア夫人はD&Gを着ていたが、ブエノスアイレスで身に着けたのは伊グッチや米リーム・アクラのドレスだった。

 内需主導型経済の中国にとって貿易戦争は、中国人民銀行の「中国金融安定報告」が指摘する通り、実体経済への影響は小さい。原油・大豆も米国の代わりに他国から調達可能だ。

外圧てこに国内改革

 しかし、早々に勝利を収めるのも具合が悪い。国内の経済構造改革を進めるための「外圧」として利用価値があるからだ。米国の市場開放要求は、抵抗の大きい国有企業改革を進めるうえで格好の材料となる。だからこそ、今回の首脳会談で一時休戦を受け入れた。

 12月4日にはさっそく、国家発展改革委員会が「“ゾンビ企業”及び過剰生産能力削減中の企業の債務処理を適切にさらに進める」との通知を発令した。

 中国は、米国がボクシングのように繰り出す制裁措置を太極拳のように柔軟に受けながら、米国の消耗を待っている。