ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの先端技術を使って移動サービスの利便性を上げる「MaaS(マース)」(モビリティー・アズ・ア・サービス)に企業が取り組み始めた。

 MaaSには(1)道路の渋滞や高齢者や障害者など交通弱者支援といった交通問題の解決のほか、(2)経路検索や乗り換えなど移動ストレス軽減による交通機関の利用促進──などが期待される。MaaSに取り組む各社は移動総量の底上げによって自社サービスのユーザーを増やそうとしている。


交通空白地帯を埋める

 高齢者に「外出の目的と手段」を提供しようとMaaSに取り組むのがドラッグストア大手のスギ薬局と自動車部品大手のアイシン精機だ。店舗への来客数を増やしたいスギ薬局と、ライドシェアサービスの使途を探っていたアイシンの思惑が一致し、地元、豊明市(愛知県)の協力も得て2018年7月からオンデマンドバスのサービス「チョイソコ」を試験運行している。

 オンデマンドバスとは移動の“需要”に応じて走るバス。決められた区域内で乗客を運ぶ。「“ちょいとそこまで”買い物に行きたい時の足にしてほしいと思いネーミングした」(スギ薬局事業推進室の山下哲矢課長)。決められたルート・時間で運行する「路線バス」が移動需要の高い区間の大量輸送に適しているのに対し、オンデマンドバスは不定時・不定ルートで個人の都合に合わせた輸送を得意とする。チョイソコの乗車料金は200円(19年3月に有償化)とタクシーと比べ格段に安い。安いが不便なバスと便利だが高いタクシーの“いいとこ取り”で経済性と利便性の両立を目指す。

 ただし、路線バスとは競合でなく補完し合う関係だ。実際、豊明市におけるチョイソコの走行区域は路線バスが走らないスキマをカバーしている。豊明市の公共交通は地元の名鉄バスと市営のコミュニティーバスが担うが、運行空白地帯も多く、道路幅が狭く通れない地域もあり不公平感があったという。その点、10人乗りで乗客定員8人の「チョイソコカー」は住宅街に入っていけるサイズで小回りも利く。

 チョイソコを使えるのは豊明市民で(1)65歳以上または障害を持つ人と、(2)一部の指定地域に住む18〜64歳だ。メインターゲットは70〜80代の高齢者。利用はあらかじめ電話でユーザー登録し、会員カードを発行してもらう仕組みだ。利用日時・乗降地点の指定を含む予約は高齢者に抵抗がない電話で行う。試験前の対象者へのヒアリングでスマートフォンアプリを操作できる人は8%しかいなかったためだ。

 運行時間は平日9〜16時。利用者は指定日時に最寄りの停留所でチョイソコカーに乗り、通称「賽銭(さいせん)箱」と呼ばれる車内設置の運賃箱に現金を投入するか「スイカ」など交通機関発行のICカードで支払う。停留所は現在100カ所以上に拡大しており、住宅地では300メートル間隔で行きやすい場所に、またスギ薬局の店舗やスーパー、病院など目的地に設置した。