(会川晴之・毎日新聞専門編集委員)

 イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が1月3日、イラクの首都バグダッドで米軍の無人機攻撃を受けて死亡した。イランは8日に弾道ミサイルをイラクの駐留米軍基地に撃ち込むなど報復を開始、反撃を公言していたトランプ米大統領の対応に注目が集まる。さらに、イラクも「米国に主権を侵害された」と猛反発、米軍の撤退を求める国会決議を5日に採択した。イラクを失えば、なお勢力を温存する過激派組織「イスラム国」(IS)の復活の可能性も出てくる。米国は極めて難しい局面に立たされている。

 米軍は2003年のイラク戦争後にイラク駐留を開始した。だが、刑務所での虐待行為が明るみに出るなど傍若無人な振る舞いにイラクの反発が強まる。当時、米国防長官だったロバート・ゲーツ氏は回顧録で、米軍が「解放軍」ではなく「占領軍」と受け止められたと指摘、駐留継続をイラクが受け入れる可能性について「はなはだ困難」な状況だったと振り返る。結局、米軍は11年末にイラクからの撤退を余儀なくされた。

 だが、14年にISがイラク北部の主要都市モスルで「建国」を宣言、バグダッドを目指して進軍を続けたことで情勢が急転した。イラク政府は米軍の再派遣を求め、現在、約5000人の米軍を中心とする有志国連合が駐留を続ける。ただ、イラク市民の反米感情は強く、ことあるごとに撤退を求める声が沸き上がる。

 引き金を引いたのはトランプ氏だ。18年12月、今回ミサイル攻撃を受けたイラクのアサド空軍基地を訪問。また「イラクからイランの動向を見守る」と発言し、有事の際はイラクからイランに出撃する考えを打ち出した。米国とイラクが結ぶ協定は、米軍の活動はイラクの治安維持やイラク内の米国の権益を守ることに限定されている。イラク政府は、第三国への出撃は「協定違反であり、イラクの主権侵害にあたる」と反発した。

イスラエルが空爆

 さらに昨年7〜9月、イスラエルが7度にわたりイラク内の武器庫を空爆した(13ページ図)。イラクは「米国の協力か、許可がなければイスラエルは空爆できないはず」と受け止め、米国への不信を強めた。そして、今回のソレイマニ司令官殺害。イラクのイスラム教シーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ(神の党旅団)」の指導者もこの攻撃で殺され、不満は頂点に達した。

 ただ、イラク軍の訓練にあたる米軍など有志国連合が撤退すれば、イラク軍の弱体化を招く可能性もある。ISは依然としてイラクで活動を続ける。今回の事件を機に、治安悪化や混乱も想定される。